「絶望的に鈍いな。アンタのピアノ目当てだよ」

「…先程、私に才能はないと仰っていたのに?」

「ああ、才能はないね。それなのに来てる理由、流石に判るだろ?大人なら」

一体、何のつもりだろう…。

「いいえ、わかりません」

「あー…もしかして、箱入り娘ってやつか?音大出てるってことは、それなりのお嬢さんだろうし」

もう、返す言葉も見つからない。

「アンタが気に入ったんだよ。だから、うまくもないピアノでも聴きに来てる。ここまでハッキリ言わないとわかんないかね、箱入り娘は」

正直、かなり驚いた。

この男は、のっけから失礼な態度だったし、まさか私を気に入っていたなんて思うはずもない。

「それは…ありがとうございます」

他に、どう答えていいかわからない。

「ありがとうございます、だって?それは、俺の女になるって意味でいいのか?」