やっぱり、こんな滅茶苦茶な話は、いくら優しい戸倉でも嫌だったのだろう。

悲しくて…それでも、戸倉は来てくれるのではないかと、夜まで待ち続けていたら、警察官に職質され、

「君、緒方紫さんじゃないか?捜索願が出されているんだが、こんなところで何をしている?」

結局、戸倉との駆け落ちも叶わず、家に連れ戻されただけでなく、卒業間近だというのに、強制的に東京の高校に転校させられた。

転校先は、いわゆるお嬢様学校で、異性との接触は徹底して禁じられていた。

戸倉の住所や電話番号を覚えておけば良かった…。

否、どのみち彼は、駆け落ち当日、現れなかったのだ。

二人の恋は、あの日、雪と共に儚く消えた…。


そして今、終着駅の待合室で、私はさり気なく戸倉の左手をチェックしたところ、結婚指輪はしていない。

まだ24才だから、独身の可能性は高いが、独身というだけで、恋人は居るかもしれない。