「うちの親はね、話せばわかるような人じゃないの。勿論、こんな滅茶苦茶な話、戸倉に拒否権はあるからね。でも、もし私と一緒になってくれるなら、日時決めて、二人で逃避行しよう?鄙びた温泉街で住み込みで働けば、二人きりの慎ましい生活なら、どうにかなるだろうし…」

戸倉は、しばらく考えていたようだが、

「わかった。俺だって緒方を離す気はない。こんな時ばかりは、何か野望があるわけでもない、つまらない男でよかったと思うよ。諦めたり、失うものもないから」

「戸倉は、つまらなくなんかない!私がこれほど好きになった相手を、つまらないなんて言わないで」

「はは…わかったよ。俺だって、緒方さえ居てくれたらいい」

そう言ってくれたから、私は約束の日に、真冬の駅のホームで、ずっと戸倉を待ち続けた。

しかし、いつまで経っても、彼は現れなかった。