病室を出たあと、一体どういうことなのか、ドクターに問うと、

「どうやら、記憶障害のようですね。今の湯川さんには、18歳までの記憶しかありません」

信じられないような答えだったが、そうだとしたら、何もかも辻褄が合う気もする。

18の頃、私たちはまだ友達で、互いを苗字で呼び合っていた。

それこそ、躰の関係どころか、手を繋いだことすらなかった頃。

つまり、諒は、私と恋人として過ごした記憶を丸ごと失ってしまったということだ。

混乱した私は、病室に戻ることを躊躇ってしまった。

「あなた、婚約者でしたよね?」

ドクターの問いに、無言で小さく頷く。

「お辛いと思います。でも、湯川さんはもっと辛い。だから、あなたが心の支えになってあげてください」

そう言って、ドクターは立ち去った。