桜色に染まる景色を眺めながら、神森駅の改札をくぐる。
駅から出ると僕を歓迎するように、柔らかな風が吹く。
取れかけたフードを直し、僕は空を見上げる。
駅まで迎えに来る祖父母を待ちながら、近くに駆け寄る野良猫の頭を撫でた。
野良猫は僕の顔を見ると、閉じていた口を開く。

「森の愛し子、良く帰って来たね」
「…久しぶりに聞いた、その呼び名」

昔からの呼び名を知っている野良猫に、僕は少しだけ驚いた。
野良猫は驚く僕に小さく笑うと、また来るよと言い去る。