私が会社を出たときは、すでに終電は無くなっていた。
テレビ局の前はすぐにタクシーが捕まる。
私は近くにタクシーを見つけたので、駆け寄ろうとしたときだ。
クラクションが鳴って、驚いて振り返った。
車が1台に近づいてきた。
それは私が今朝、乗った車と同じだ。
助手席側の窓が開くと那原さんが覗き込んだ。

「おせーよ」
「え?」
「乗って」
私が戸惑っていると、後ろから車がクラクションを鳴らす。
私は慌てて助手席に乗り込んだ。
すっと当たり前のように動き出した那原さんの車。
「どうして?ずっと待ってたんですか?」
「だって、今日も一緒に居てくれるんでしょ」
「でも、あなたさっき断ったじゃん」
「そうだっけ?」
「そうですよ!」
「って、何処に行くんですか」
「うーん。君んち?」
「ええ!?」

そう言うと、那原さんは履歴を表示して私の住所を選択。
そして本当に私のアパートの前に来てしまった。
「車、停めてくるからここに居てね。・・・逃げるなよ?」
そう言うと那原さんは言ってしまった。
家にあげて良いものだろうか。
でも、今日も一緒にいるって言ったのは私だし。
なんで、私はそんなとんでもないことを言ってしまったのだろう。
そんなこと言っていると車を停めた那原さんが戻ってきた。

「お待たせ」

色気のあるその声に急に心臓がドキドキし始めた。

「おじゃましま~す」

那原さんが部屋の中を見渡した。

「へ~綺麗にしてるじゃん」
「ソファにどうぞ。もう遅いですしシャワーでも浴びますか?」
「何それ?早速、誘ってる?」
「違います!私は昨日もお風呂に入ってないから早く入りたいんです!」
「あははっ冗談だよ。先にどうぞ」

私はお言葉に甘えて先にシャワーを浴びさせてもらった。
那原さんには途中で買ったお弁当を食べて待ってもらうことにした。
シャワーを浴びていると、眠かった頭が少し冴えて、私は今、とんでもないことをしているのではないかと思った。
私がお風呂からあがるとテレビを観ながら那原さんはくつろいでいた。
心臓がバクバクして、汗が止まらない。

「な、那原さんもどうぞ」
「ああ。ありがと」

交代でお風呂へ向かおうとする那原さんにタオルとトレーナーを渡した。

「え?」
「なんですか?」

トレーナーを見て、那原さんは少し驚いた表情をした。

「別に。ありがと」

そう言うと、シャワーを浴び始めた。
シャワーの音がこんなにドキドキさせるなんて初めてのことでとまどった。
私はテレビの音量を少し上げながらお弁当を食べる。
全然、食べ物が喉を通らない。
この後、いったいどうすれば良いのだろう。
とりあえず、私はソファで寝て那原さんに寝室を使ってもらおう。
私は予備の枕と掛け布団を引っ張り出した。
何かをしているうちに少し落ち着いてきた。

お風呂から那原さんがあがると少し雰囲気が幼くなっていて可愛かった。

「何、笑ってるんだよ」
「なんか可愛いなって」
「は?」

ちょっと機嫌が悪い那原さん。

「可愛いって失礼でした?」

それにも返答がない。
やはり背が高いからトレーナーは男性ものだとは言っても少し那原さんには小さかったようだ。
このトレーナーは私が数ヶ月前にサイズを間違えて買ったものだ。
まさか、これを使う日が来るとは思わなかった。
捨てないで置いといてよかった。

「もう遅いので寝ましょうか」
「一緒に?」
「は!?寝ませんよ!一緒になんか!」
「だって一緒に居てくれるっていったじゃないか」

そう言うと那原さんは私の肩に手をかけてきた。
触れられたところがやけに熱い。

「君、なんか汗かいてない?」
「お風呂入ったら汗が止まらなくて」

すると那原さんは私のおでこに手を置いた。

「熱あるじゃん!」
「え?」

そういえば、先程からなんだか身体が重かった。
緊張しすぎて全くわからなかった。

「寝室は?」

私が指さすと那原さんは私の手を取り寝室に連れて行く。

「那原さんがベッドで寝てください。私はソファで」
「何言ってんだよ」