俺は及川プロデューサーと特別食堂室とかいうところで打ち合わせをしていた。
大した打ち合わせじゃないのに、スタッフが10名ほどいる。
半数以上が女性で先程から何も話さない。
テレビ局での仕事は滅多に入らない。
しかしあるアニメの大ファンだというこの男に無理矢理、番組をやらされている。
ちなみにそのアニメとは一切、無関係のバラエティ番組だ。
俺は顔も名前も出していない声優をしている。
だから番組に出ていると言っても天の声的な役割だ。
もちろん、エンドロールにも名前は載らない。
これは自分で望んでやっていることだ。
ただアニメ人気により、業界の中では名前が有名になってしまっている。
及川からのオファーの連絡も名指しできた。
「それでー那原ちゃんには、ここで決め台詞を言って欲しいのよ」
「決め台詞って醜奸の?」
「そう!」
ヘラヘラと笑うこの男が俺はすごく苦手だ。
会ってすぐにちゃん付けしてきた。
そんな奴、今まで会ったことがないから免疫がない。
今でこそ、もう慣れてどうでもいいが、最初は嫌悪感があった。
まだ会って数回なのにぐいぐい来るところも苦手。
「ちゃんとアニメサイドには許可、取ってるんですか? 全然、関係ない番組ですよね?」
「とるとる。ちゃんと取るから~」
本当に取るのか不安だ。
前にこいつが許可を取らず、無理矢理言わされたセリフ。
オンエア後、アニメの収録現場に行った際に勝手にキャラを使わないでほしいと、マネージャーが女性の広報スタッフに怒られていた。
ちなみにマネージャーは入社2年目の女の子。
きっとそれもこの広報の女は気に入らないのだろう。
自分のことで人が怒られるところを見て、何とも嫌な気持ちになり俺が間に入った。
しかし、俺には何も言わず逃げるように笑顔を向けてその女は去った。
マネージャーなら言いやすいってか。
俺に直接、言ってこない理由はわかっている。
この広報スタッフは俺に気がある。
何度か食事に誘われたが、ずっと断っていた。
そんな中、マネージャーとだけは普通に会話するのが気にくわないのだろう。
俺に対するクレームも含めかなりの量をマネージャーが言われていると思う。
「毎回、こんなこと言われてんの? 今度から俺に直接言うように言って」
「はい、すみません」
「謝る必要がない時は謝らない」
「はい!」
今も俺の近くに座るマネージャーは先程から黙って及川のことをじっと見つめている。
及川は若手ホープ、事務所の後輩たちもたくさんお世話になっているし、社長からテレビ局と関係を築くように言われているはずだ。
小さい事務所がテレビ局に関われたチャンス。
俺も大人しくしておこう。
「那原ちゃん、食事してくでしょ? 何にする?」
「いや、俺はこれで」
飲んでいたアイスコーヒーのグラスをあげる。
「いいじゃん! いいじゃん! 食べて来なよ~」
すると、間にアシスタントプロデューサーの笹田が入ってきた。
「そうですよ。先週の視聴率は那原さんが天の声として出演してくれたから高視聴率になったんですから」
「いやいや。俺じゃなくてアニメ効果でしょ」
醜奸は、俺が主人公の声をやったアニメだ。
ストーリーと作画がよくて大ヒットした。
俺はそれに、たまたま乗っかれただけだ。
「那原ちゃんって普段、何食べてんの? なんか、高そうな外食してるイメージだよねー」
「そうですねー…女かなぁ」
少し間があってスタッフたちの下品な笑い声が響いた。
「やばぁーめっちゃいい声でそんなこと言われたら鼻血でるわ!」
「女性スタッフが失神しそうですよ」
きゃーーーっとわざとらしく、頬に手をやる女性たちもいる。
俺は自分の立ち位置をわかっているし、何をすればその場が盛り上がるかもわかっている。
我ながらずる賢い性格だと思う。
「それにしてもさ~」
そう言いながら及川は俺のサングラスを取った。
「なんで、そんなにイケメンなのに顔出しNGなのよ」
「声で勝負したいんで」
「ふーん……あ、もしかして~」
大した打ち合わせじゃないのに、スタッフが10名ほどいる。
半数以上が女性で先程から何も話さない。
テレビ局での仕事は滅多に入らない。
しかしあるアニメの大ファンだというこの男に無理矢理、番組をやらされている。
ちなみにそのアニメとは一切、無関係のバラエティ番組だ。
俺は顔も名前も出していない声優をしている。
だから番組に出ていると言っても天の声的な役割だ。
もちろん、エンドロールにも名前は載らない。
これは自分で望んでやっていることだ。
ただアニメ人気により、業界の中では名前が有名になってしまっている。
及川からのオファーの連絡も名指しできた。
「それでー那原ちゃんには、ここで決め台詞を言って欲しいのよ」
「決め台詞って醜奸の?」
「そう!」
ヘラヘラと笑うこの男が俺はすごく苦手だ。
会ってすぐにちゃん付けしてきた。
そんな奴、今まで会ったことがないから免疫がない。
今でこそ、もう慣れてどうでもいいが、最初は嫌悪感があった。
まだ会って数回なのにぐいぐい来るところも苦手。
「ちゃんとアニメサイドには許可、取ってるんですか? 全然、関係ない番組ですよね?」
「とるとる。ちゃんと取るから~」
本当に取るのか不安だ。
前にこいつが許可を取らず、無理矢理言わされたセリフ。
オンエア後、アニメの収録現場に行った際に勝手にキャラを使わないでほしいと、マネージャーが女性の広報スタッフに怒られていた。
ちなみにマネージャーは入社2年目の女の子。
きっとそれもこの広報の女は気に入らないのだろう。
自分のことで人が怒られるところを見て、何とも嫌な気持ちになり俺が間に入った。
しかし、俺には何も言わず逃げるように笑顔を向けてその女は去った。
マネージャーなら言いやすいってか。
俺に直接、言ってこない理由はわかっている。
この広報スタッフは俺に気がある。
何度か食事に誘われたが、ずっと断っていた。
そんな中、マネージャーとだけは普通に会話するのが気にくわないのだろう。
俺に対するクレームも含めかなりの量をマネージャーが言われていると思う。
「毎回、こんなこと言われてんの? 今度から俺に直接言うように言って」
「はい、すみません」
「謝る必要がない時は謝らない」
「はい!」
今も俺の近くに座るマネージャーは先程から黙って及川のことをじっと見つめている。
及川は若手ホープ、事務所の後輩たちもたくさんお世話になっているし、社長からテレビ局と関係を築くように言われているはずだ。
小さい事務所がテレビ局に関われたチャンス。
俺も大人しくしておこう。
「那原ちゃん、食事してくでしょ? 何にする?」
「いや、俺はこれで」
飲んでいたアイスコーヒーのグラスをあげる。
「いいじゃん! いいじゃん! 食べて来なよ~」
すると、間にアシスタントプロデューサーの笹田が入ってきた。
「そうですよ。先週の視聴率は那原さんが天の声として出演してくれたから高視聴率になったんですから」
「いやいや。俺じゃなくてアニメ効果でしょ」
醜奸は、俺が主人公の声をやったアニメだ。
ストーリーと作画がよくて大ヒットした。
俺はそれに、たまたま乗っかれただけだ。
「那原ちゃんって普段、何食べてんの? なんか、高そうな外食してるイメージだよねー」
「そうですねー…女かなぁ」
少し間があってスタッフたちの下品な笑い声が響いた。
「やばぁーめっちゃいい声でそんなこと言われたら鼻血でるわ!」
「女性スタッフが失神しそうですよ」
きゃーーーっとわざとらしく、頬に手をやる女性たちもいる。
俺は自分の立ち位置をわかっているし、何をすればその場が盛り上がるかもわかっている。
我ながらずる賢い性格だと思う。
「それにしてもさ~」
そう言いながら及川は俺のサングラスを取った。
「なんで、そんなにイケメンなのに顔出しNGなのよ」
「声で勝負したいんで」
「ふーん……あ、もしかして~」