ガタンッ

突然、桐生くんが椅子から勢いよく立ち上がった。

「え?」

そして私たちの方を睨み、チッと舌打ちをすると、カバンを持って廊下に向かって歩き出す。

え、怒らせちゃったかな...

まあ、そうだよね。自分の噂話を近くで言われて、気持ちがいいわけがないもん。

「桐生!」先生が、呼び止めるけれど、桐生くんはあっかんべーをして廊下に出ちゃった。

「あ、待って! 桐生くん。さっきはごめん!」

わたしも呼び止めたけれど、全然聞いてくれない。

よおし、こうなったら。

着いて行くしかないな。

「先生、すみません。わたし、桐生くんを連れ戻してきます!」

先生は「え、ちょっと...」って、びっくりしてたけど、わたしのせいだしね。怒らせちゃったのは。

わたしは、尾行することにした。

桐生くんはおしゃれで可愛いカフェに入って行った。桐生くんがどうしてここに?

もしかして、なんか悪いことしてるとかじゃない、よね?

「いつもので」

桐生くんはぶっきらぼうに言う。

ん? いつもの?

「どうぞ。パフェです」

「ありがとうございます」

ぼそっと言うけれど、目が輝いてない?

パフェをスプーンですくって口に入れると、口角がすごく上がって、幸せそうな顔をした。

なにこの顔。桐生くんのこんな顔見たことない。

もしかして...もしかしてだけど、桐生くんって、甘党だったりする?!

ええーそんなことないよね。

だって、桐生くんって、怖い感じだし、ヤンキーなんじゃないの?

「ん、え?」

あ...びっくりしすぎて、声が出ちゃった。

「誰だ」

桐生くんはまたいつもの低い声に戻って、警戒している。

こうなったら...
「ご、ごめん。桐生くん」

わたしはお店の中に入ると、桐生くんに声をかけた。

「お前...」
桐生くんは戸惑った顔をして、言う。

「誰だっけ」

ええ?!クラスメイトだよ!しかも隣!!名前覚えてないとか、ひっどー

「な、中川結衣!!同じクラスで隣の席の!!」

「...ああ」
「で、なんでいんの?」

桐生くんは問いかけると、一旦出るか、と言って料金をちゃんと払い、可愛いカフェから出た。

「……あの、いきなり出て行っちゃったから、呼び止めようと思って。それに、謝りたかったし」

「なにそれ。そんなんしてなんになんだよ。オレが出て行ってそんなことした奴誰もいないけど」と少しイラつきながら言う。

「え、誰もいないの? じゃあ、放っておいたってこと? ひど!」
とても腹が立った。

「......なんで人のためにそんな怒ってんの。今日始めたあった奴のこと」

「えだってひどくない? 近くで噂話っていうか悪口?言われたら誰だって悲しくなるでしょ」

「......おもしれえ女」
そう言って、桐生くんは笑った。

え。わ、笑った!

「な、なにそれ! 誰が面白いの?少女漫画のヒーローにでもなったつもり?」

わたしは動揺しすぎてからかっちゃったけど、桐生くんが笑ったことが、すごく嬉しかった。
珍しいと思って。...すぐ、元の顔に戻っちゃったけど。

「でさ。......さっき、見てた?」

さっき......あぁ。パフェか。

「あ、うん。もしかして、桐生くんって、甘党とか...?」

わたしが首を傾げながら言うと、桐生くんは顔を真っ赤にした。

そして、コクンと頷いた。

「だ、誰にも言うなよ」

顔を赤らめながら、睨んできた。なんか、可愛い...?!

「言わないよ!それに、別に変じゃないし」

「まあ、ちょっと意外だけど」

わたしが言うと、また顔を赤らめた。

「ゆびきりげんまんしよう! バラさないって約束」

わたしが小指を差し出すと、

「ん」桐生くんも小指を差し出した。

「ゆびきりげんまん、嘘ついたらはりせんぼんのーます、指切った!」

「じゃあ、学校戻ろ!」

「......ん」

わたしは桐生くんの手を引っ張って学校まで走った。

近くまで来た時に、桐生くんが突然言った。

「ね、手」

「ん? なに?」

「なに手繋いでんの?」

桐生くんは少し切ない表情をしていた。どうしたんだろ。あ。もしかして、潔癖症とか?わたしはパッと手を離した。

「あ、ごめん...またいなくなったら嫌だと思って」

「いなくなんねぇし」

「......てか、オレも男なんだけど」

桐生くんがまた悲しそうな顔をして呟いた。なんて言ってるかは聞こえなかったけど。