やめてよ。“麗さん”なんて、親しそうに呼ばないでよ。

「あの人…安東の初恋の人なんだ?」

自分からこんな話するなんてバカみたい。

「小さい頃の話だよ。お互い一人っ子で遊ぶ機会多かったから」

「でも結婚するって言ってたんでしょ?」

なに言ってるんだろう、あたし。

なんでこんなにイライラしてるんだろう。

「…もしかして、ヤキモチ妬いてる?」

「別にヤキモチなんかじゃないよ」

なんて即否定したけど、図星だ。

だって、あの人は小さい頃からの安東を知っている。

そう考えると、なんかイヤな気持ちになる。

そのあとは、結局あたしの機嫌が悪いままで。

安東もあたしの機嫌の悪さに呆れたようで、「塾で自己学習したいから」と言って夕飯前の時間に帰ることになった。

ひとり家までの道を歩きながら、ため息をつく。

せっかくの安東との初デートだったのに、どうしてこうなるんだろう。

どうして、あたしはいつも素直になれないんだろう…。