【Side 慧】
穏やかな春の午後。
俺は、いつものように裏庭で本を読みながら昼休みを過ごしていた。
大きな桜の木の下にある古いベンチに座って、本の世界に入り込む。
誰もいない静かなこの空間は、読書をするのに最適だ。
だけど、今日はいつもと違った。
「梓、別れよう」
突然、耳に飛び込んできた言葉。
そっと木の陰から様子を窺うと、カップルらしき男子生徒と女子生徒がいた。
男子の方は顔が見えないけど、女子は同じクラスの椎名さんだとすぐにわかった。
「なんで?」
「ん~他に好きな子出来たから?」
ふたりはここに他に人がいるなんて気づきもせず、別れ話を続けている。
盗み聞きするつもりはないけど、静かな場所だから会話が丸聴こえだ。
「あっそ。あたしも別にあんたのこともう好きじゃないし。これでバイバイだね」
「……あ、ああ」
「じゃあ、話は終わったから戻るわ」
予想外にあっさりと話が終わり、男子の方はさっさと校舎の方へ歩き出した。