「安東はなんでT大の文学部に行こうと思ったの?」

学校の最寄り駅にあるファストフード店で、突然彼女から受けた質問。

いきなりどうした?と訊こうとして、今日は二者面談の日だったことを思い出した。

きっと、進路のことで先生に何か言われたんだろう。

「とにかく本が好きだから、もっと専門的に勉強したいって思ったんだ」

「ふ~ん。そんなに好きなものがあるっていいね」

椎名さんらしい、どこか棘のある言い方。

聞く人によってはバカにしてるように思うかもしれないけど、きっとこれが彼女なりの言い方だ。

「……あたしには何もない」

ぽつりとそう言って、まるでヤケになったようにシェイクのストローを勢いよく啜る椎名さん。

隣のデーブルで夏休み目前で解放感に満ち溢れて楽しそうに話す同じ高校生らしき女子グループとは対照的に、椎名さんの表情は暗く陰っていた。

「何もないならこれから探せばいいんじゃない?」

「え?」