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「――椎名さん、これはなに?」

放課後の進路指導室。

7月に入って本格的な夏が訪れて、窓の外ではセミが鳴き続けている。

あたしの向かい側には、厳しい表情で提出した進路調査票を見つめる担任が座っている。

「なにって、進路調査票ですよね」

「それはわかってるけど。どうして白紙なの?」

「まだなにも決めてないからです」

「決めてないって、もう卒業まで半年しかないのよ?」

「わかってます」

顔色一つ変えずに淡々と答えるあたしに、先生が呆れたようにため息をついた。

今日はあたしの二者面談の日で、先生は事前に提出した進路調査票を見ながら面談をしているんだけど。

あたしは結局卒業後の進路を決められずに白紙のまま調査票を提出した。

「親御さんと話し合いはしたの?」

敢えて“両親”という言葉を使わなかったのは、うちが離婚して父親しかいないことを知っているからだろう。

「してません」

仕事第一であたしと顔を合わせることなんてほとんどないから、話し合う時間なんてない。