「そんなことない。もっと可愛い」

思い切ってそう言ったら、

「……もう、ホントムカつく!」

真っ赤になった顔をプイっと横に背けた。

でも、それは怒っているからじゃなくて照れているからだってわかるから。

「椎名さん、こっち向いて」

さっきの仕返しでちょっと意地悪なことを言ってみる。

「やだ!」

「こっち向いて」

「やだってば」

「梓?」

「……っ」

作戦成功だ。

名前呼びに反応して振り向いた椎名さんは、相変わらず赤い顔のまま。

「俺の勝ち」

得意顔で言うと、

「……バカじゃないの」

わざとらしくため息をついてつぶやいた椎名さん。

でも、その言い方は本当にバカにしているわけではなくて。

自惚れかも知れないけど、愛情のこもった言葉に聞こえた。

口では強がっていても、“可愛い”の一言や名前呼びしただけで、こんなに恥ずかしがるなんて、なんだか意外だ。