「ここは静かに本を読んで過ごせるから」

そう言った彼の手には、確かに文庫本があった。

難しそうなタイトルの、あたしじゃ絶対に1ページも読めなさそうな小説。

「まさか椎名さんがフラれるところを見ることになるなんて思わなかったけど」

なんか今さりげなくムカつくこと言われた気がする。

何か言い返そうとしたとき、ちょうど昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。

「じゃあ、俺は教室戻るから」

安東はそのまま校舎の方へと歩き出した。

「―あ」

だけど一瞬立ち止まって、

「泣きたいなら、俺がいなくなってから泣きなよ。授業中は誰も来ないから」

振り返って、そう言ったんだ。

「は? 何言ってんの?」

「さっきから泣きそうな顔してる」

「……え?」

うそ……そんなわけない。

だって、あんな浮気ばかり繰り返してるヤツ、もう好きじゃないし。