【Side 慧】


“あたしは安東のことなんて好きじゃない”

その言葉を思い出すだけで、胸の奥が痛む。

みんなの前で言ってしまった自分の気持ち。

まさかあんなにはっきり拒絶されるとは思わなかった。

昼休みに一緒に過ごすようになってから、ほんの少し期待してしまっていた。

もしかしたら、このまま近い距離にいられるんじゃないかって。

だけど、椎名さんにとって、俺と関わることが迷惑でしかないなら。

“もう話しかけないから”

本心を必死に隠して告げた言葉。

離れることが、彼女のためだと思った。

そして数週間が経ったある日の放課後。

日直当番で日誌を職員室へ持って行く途中、2年の教室の前を通りかかった時。

「まさか、あんな騒ぎになるなんてね~」

「でもイイ気味だよねぇ」

A組の教室の中から、女子生徒数人の会話が聞こえてきた。

「詩穂、大人しい顔してすごいことやるよね。椎名先輩の密会現場を隠し撮りして掲示板に張るなんて」