「主人公は、自分とは全く違う性格だったり、違う国の人だったり、違う時代の人だったりするだろ? 主人公と一緒に泣いたり笑ったり怒ったりして本の世界に入り込むと、違う自分になれた気がするから」

「……ふ~ん」

あたしには、正直よくわからないけど。

でも、瞳を輝かせて嬉しそうに話す安東は、なんだか少しだけカッコよく見えた。

いつも静かで目立たず、ひとりで読書ばかりしてる安東。

だけど、人のことをうわべだけで判断せずによく見てる。

最初はそれがムカついたりもしたけど、今は羨ましく思う。

それに、今はなぜか安東と過ごす時間が嫌いじゃないんだ。

彼が持っている雰囲気なのか、裏庭が静かな空間だからかはわからないけど。

ゆっくりと穏やかに流れていく時間と空気感が、あたしの心を落ち着かせてくれる気がして。

だけど、そんな穏やかな時間は、長くは続かなかった。