「何がホーホケキョよ。こっちはフラれてムカついてるって言うのに!」

今のシチュエーションに全くふさわしくない、呑気な鳴き声にムカついて思わず叫んだ時。

「鳥に八つ当たりするなよ」

誰もいないと思っていたのに、どこからかそんな言葉が聞こえてきた。

「誰?」

声がした方を探して周りを見回すと、裏庭の大きな桜の木の陰にある古ぼけたベンチに見覚えのある男子生徒が座っていた。

さっきは木の陰になっていて見えなかったんだ。

「っていうか、なんで安東がこんなところにいるの?」

安東は同じクラスで隣の席の男子だ。

休み時間はいつも自分の席で本を読んでいる、いわゆる地味男子。

友達と話しているところも見かけたことがなく、陰では学年一の地味男子なんて言われているくらい目立たない存在。

だから、昼休み中でほとんどの生徒が教室か屋上でお弁当を食べているこの時間に、安東がこんな場所にいるなんて思わなかった。