「殺虫剤を混ぜたの。ママとパパに振る舞った珈琲に。中一だった。クリスマスの日だった。ママってば相当な甘党でね。ほら、駅前のちょっとお高めのケーキ屋さん。クリスマスだしおじいちゃんにねだってお小遣いを貰って、そこで一番高いケーキを買ったの。ママ、″たまには役に立つ″って褒めてくれた。いっつもサンドバッグになって役に立ってるじゃないって思ったけど言わなかった。それから珈琲まで淹れてあげてね」

「殺虫剤を…」

「そう。スプレー缶がカラになるまで入れた。害虫だもん。殺処分が妥当でしょ?口からいっぱい汚い泡を出して首を掻きむしりながら悶えてた。虫も顕微鏡で見たらこんな感じで死んでいくのかなって思った。中毒だか胃痙攣だか、お医者さんがなんて言ったかは憶えていないけれど…とにかくママもパパもちゃんと死んだ」

「メグちゃんは…その、疑われなかったの…」

「自殺ってことになった。誰もメグを疑わなかった。ケーキを買ったのはメグだってちゃんと言った。そしたらさぁ、なんか面白いくらい同情買っちゃって。メグの体、痣だらけだったの。痣だけじゃない。切り傷もいっぱいあって。ね、想像つかないでしょ?みんなメグの顔をすごく褒めてくれるけど体はグチャグチャ。汚いの。だから恋だって、まともにできなかった。警察もお医者さんも、こんな風に娘を扱って、それでも健気にケーキを買ってきて愛されようとしたんだって。きっとそんな姿が両親をようやく″人間″にして、悔いて自殺したんだろうって。″可愛いメグ″の汚い体は、それすらもメグを守った。それからすぐにおばあちゃんが病気で倒れて、おじいちゃんを苦しめて、結局メグのおうちはグチャグチャなまま。サヨちゃん、せんせーはメグを救ってくれたの」

「ナツくんが…?」

「怖くて恋もできなかったメグに恋を教えてくれた。汚い世界の中で唯一呼吸ができる場所を与えてくれた。だからね、せんせーが居ないのならメグは死んじゃうの」