「時枝、ちょっと…」

他の生徒とおんなじように教室に戻ろうとしたメグを
せんせーが呼び止めた。

五時間目は国語だ。
うちのクラスの国語はなぜかほとんどが五時間目だった。

いつも眠たい時間だから
全然眠くならないイベントを設定してくれていて
メグはうれしかった。

「はい?」

「五時間目、出席しなくていいから生徒指導室に来て」

「生徒指導室?」

「一階の、保健室の横」

「どうしてですか?授業は?」

「自習にする」

「教室戻んないとメグ、何かあったんじゃないかってますます疑われちゃう」

「大丈夫だから。教室行って、自習にしてからすぐ行くから指導室の前で待ってて。鍵取ってくる」

「はい…」

ちょっと不服そうな表情をしてみたけれど
内心、叫び出しそうなくらいには舞い上がっていた。

デートの待ち合わせみたいだった。

理由なんかなんだっていい。

みんなが教室に拘束されている時間。
好きな人が与えてくれた二人っきりの時間。

前世の悪事が今に反映されるなんて
やっぱり嘘だ。

メグはきっと、うんと良い行いをしたのかもしれない。
初恋がこんなに順調だなんて
そうとしか思えない。

金魚を混入させたことだって
この時間を勝ち取る為に必要だったんだ。

ポケットの中の
ちょっと湿ったハンカチだって愛おしく思えてくる。