せんせーにはもう、
デスク周りもメグのことも見えていない。

美人教師のデスクの上に置きっぱなしのマグカップ。
黒い液体が艶を作っている。
カップの三分の一よりちょっと多めくらいしか
珈琲は残っていない。

早歩きで職員室を出ようとしたせんせーが振り返ったのと、
メグがポケットにハンカチを押し込んだのは、
ほとんど同時だった。

せんせーとすれ違うようにして
美人教師が職員室に入ってきた。

ハッと我に返ったみたいに
せんせーが「時枝…」って言いながら
戻ってくる。

美人教師が「まだ居たの」って顔をしてメグを見ながら
細い指で持ち手を掴んで
カップをくちびるに添えた。

「時枝…!さよ……紅はどこに居る?何があった……」

「ッ…………きッ………きゃァァアアアッ…………!!!!」

言いかけたせんせーの声なんて
一瞬で掻き消すような
美人教師の叫び声。

床に叩きつけられたマグカップ。

真っ二つに割れて、
珈琲が美人教師の黄色いフレアスカートと
メグの白いハイソックスを汚した。

液体が、こびりつく血液に見えた。

ピクリとも動かない、
まるでゴム製みたいな金魚が
生きているような目で一点を見つめている。