お風呂場まで水槽を運んだ。

メグ達の様子を見たお母さんが慌ててやってきて
洗面器に水と、
何かの粉を入れて掻き混ぜた。

「なんですか、それ」

「液体塩素中和剤っていってね、液体のカルキを抜く為のお薬よ」

「金魚は水道水では生きられないですもんね」

「そうね。カルキ抜きにはいろんな方法があるけど、これはほぼ瞬間的に抜けるから便利なのよ。夫も熱帯魚とか凝っててね」

「そうなんですか」

「それにしても…何があったの」

サヨちゃんは水槽の中から掬い出した…、
この場合、″救い出した″っていうほうが適切な気もするけれど、
金魚達を、お母さんが作った水の中でやさしく丁寧に指先で洗浄した。

涙ぐんでいて
何も言わない。

その間にお母さんが水槽を洗ってくれている。

「私のせいなんです。サヨちゃんから金魚のごはんを受け取った時に変に傾けちゃって。袋の中身が全部入っちゃって」

「あら…それはこの子達は驚いたでしょうね。次は気をつけてあげようね?」

「はい。サヨちゃん、ごめんね?」

「…いいの。わざとじゃないんだから。私の渡し方もいけなかったんだと思う」

「ううん。ごめんなさい…大切な金魚なのに…」

「メグちゃん、大丈夫だから。ほら、この子達も元気だよ?メグちゃんが一緒に運んでくれたから早く入れ替えができたし。ありがとう」

「ううん…」

お母さんが新しく作ったカルキ抜きの水槽に
サヨちゃんがそっと金魚を戻した。

二匹の鰭が揺れる。

優雅に。

小さい命すら
奪い損ねたメグを
嘲笑うみたいに。