「ね、サヨちゃん」

「なぁに?」

「金魚にごはん、あげてみたいな」

「ごはん?ふふ、なんか面白いね。いいよ、ちょっと待ってね」

サヨちゃんはアクアリウムを乗せている棚の引き出しから
″金魚″って文字と
金魚の写真が印刷された袋を取り出した。

「これ。ふた摘みくらい入れてくれたらいいよ」

「わかったぁー」

メグの声と
ボチャボチャボチャッて、
餌が水に吸い込まれていく音が重なった。

メグに金魚の餌を渡した手の形のまま固まってしまったサヨちゃんが
弾かれたみたいに
ハッと我に返った。

「えっ……え!?大変っ…早く取り替えなきゃ!」

サヨちゃんはメグに構ってる場合じゃないって形相で
アクアリウムを抱えようとして
上目遣いで、ちょっと涙目でメグを見て、
「ごめん、一緒に持ってもらってもいい?」ってかすれた声で言った。

照明の灯りを受けて
キラキラと瞬いていたアクアリウムは

泥水みたいに濁って
金魚がどこを泳いでいるのかもよく見えない。

袋の中の餌全部。

いっそ埋もれて窒息しちゃえばいいのに。