「なにしてるの」

「次の授業でなー。題材になる人物をモチーフにした映画」

せんせーは誰でも知ってる文豪の名前を挙げた。
脳内にやんわりと浮かぶ、宣材写真みたいな顔。
その人の小説をメグは読んだことが無い。

「映画観るの?」

「文字や文章から自分が最もうつくしいと思う状態をイメージできるタイプと、映像や言葉で伝えられたほうが理解して楽しめるタイプがいるからな。扱ってる題材は同じでも、どちらかに対して感じられるものが半減しちゃうのは勿体無いだろ?良くても、良くなくても」

「せんせーって、先生なんだね」

「どういう意味だよ」

ははっ、て笑った先生の横顔を
カーテンを開けた窓から差し込む光が照らしている。

光の筋に乗せて
空気中の埃がキラキラと瞬いている。
きれいだと思った。

せんせーが口にした文豪が
死とか、浅くない恋愛とか
人間のだらしなさ、くだらなさ、それでも執着する生なんかを書いている、ってことは知っていた。

だからメグは読んだことがない。
メグにはまだ知らないことが多すぎる人生だったから。
理解できないことは悲しいから。

「ね、せんせー」

「んー?」

「輪廻…って、特別なの?」

映像を一本に絞ったのか、
持っていた他のパッケージを棚に戻して
せんせーはメグと視線を合わせた。

ちょっと首を傾げてから
ふわって、やわらかく微笑んだ。

「特別かどうかは知らないけど。死んでないから」