「こい…?」

ほんのちょっと震える声でサヨちゃんは呟いて
メグを見た。

瞳がちょっと揺れている気がした。

「内緒だよ?」

「…うん。分かった」

「ねぇ、サヨちゃん。一時間目が終わったらさ、お手洗い行こうよ。リップ、塗ってあげる」

「いいの?」

「約束したじゃん」

「うんっ。楽しみ」

じゃあね、って手を振って
メグはサヨちゃんからは遠い、自分の席に戻った。

メグの息遣いに肩が跳ねたサヨちゃんと、
出席確認でせんせーに名前を呼ばれた時のサヨちゃんは
おんなじ表情で、おんなじ色に耳たぶを染めていた。

メグの初恋とサヨちゃんの初恋がもしもお揃いだったなら
メグはサヨちゃんの恋の色を消したかった。

この教室には、
せんせーの視界に映るもの全て、
きれいなものはメグだけでいい。

一時間目の数学は退屈だった。

メグはまた窓から見える校庭を見下ろして
桜の花びらが散る速度を眺め続けた。

うすい桃色は
やっぱり白に似ていた。