大学に入り、彼女と離れ離れになった。
 安心していいはずなのに、僕は一日中彼女のことを考える。『たんぽぽの綿毛が飛んでいるよ』なんてどうでもいい写真付きメッセージさえ、何回も読み返す。
 彼女からの日々の連絡はまるで、この世界に僕が存在してもいいのだと受容してくれているようで。彼女が住む明るい場所の端っこに僕がいることを許可してくれているようで、泣きたくなる。
 彼女は僕をおかしくさせる。けれど僕は、そのおかしな気分に名前をつけることはしなかった。素知らぬふりをした。


 夏休み直前。彼女からの連絡が途絶えた。心配になって、勇気を振り絞って電話をかけてみた。繋がらなかった。メッセージも届かない。

「そうか……。僕に飽きたんだ。彼氏ができたんだろうな……」

 最初からわかっていた。からかわれていただけ。暇つぶしの相手だっただけ。
 それなのに僕は、彼女の家に行ってしまった。
 彼女の我儘に振り回された被害者なのだから、怒る権利があると、自分に言い聞かせて。
 
 彼女は何度も謝ったが、僕は「許さない」と怒鳴った。
 僕をおかしな気分にさせた罪は重い。生まれて初めて、生身の女の子と仲良くなりたいと思ってしまったのだから。
 彼女と繋がりたくて、新しい連絡先を手に入れた。彼女のラインに、『よろしく』と送る。なにがよろしくなのかは、自分にもわからない。

「まずは友達から始めよう」

 そう言った僕に、彼女はとびっきりキュートな笑顔を見せた。

「うん! 嬉しい!!」

 降伏するしかない。認めるしかない。
 彼女は……二次元の女の子と同レベルに、可愛い——。