三月になり、高校を卒業した。私は地元の大学に、律音くんは隣の県の大学に進学した。
 学校に行けば、顔を合わせられた日々が貴重だったことを知る。
 律音くんに会えない寂しさが高まって、朝晩の挨拶の他に日中もメッセージを送るようになった。

『天気がいいね』
『空が綺麗だよ』
『たんぽぽの綿毛が飛んでいるよ』
『季節限定のマンゴードリンクが売切れで買えなかった。残念』

 綺麗な夕焼け空や道端の花を見つけては、写真を撮って送る。
 一日平均五通。ひどいときには二十通送ることもある。完全なるストーカーの出来あがりである。律音くんはさぞや呆れているだろう。


 そんな重度の恋愛中毒に終止符を打つ日がやってきた。
 大学で仲良くなった友達に、ストーカー事件が起こったのだ。ゴミ捨て場からゴミ袋を持ち去ろうとする男に、友達の彼氏が声をかけた。同じサークルの男子だったからだ。その男子が持ち去ろうとしていたのは、友達が出したゴミ袋。友達に片想いをしていた男子は、家に持ち帰って中身を漁っていたらしい。
 人間として最低だと怒る友達からその話を聞いたとき、私は体の震えを止められなかった。

 ――律音くんのゴミ袋、私も欲しい。律音くんの生活を知りたい。

 自分の中にある欲望に身の毛がよだつ。私は犯罪予備軍だ。このままでは律音くんを傷つけてしまう。
 
「迷惑をかけるのって、愛じゃないよね……」

 ようやく気づいた。目が覚めた。
 私がしてきたことは、愛という名の嫌がらせでしかなかった——。


 律音くんの連絡先を消去した。それからスマホを解約し、違う電話番号に変えた。
 真夏の抜けるような空の下。私は新しく購入したスマホを握り締めて、泣き崩れた。
 律音くんの電話番号もアドレスもわからない。履歴もない。

 すべてが終わった。同時に私の人生も終わった──。

 心にポッカリと大きな穴が開いている。私の世界から、大切な宝物が失われてしまった。この穴が埋まることは永遠にないだろう。