「ただいま」


刃佳がやっとのことで帰ってきた頃には、もう、時計は12時を指していた。


「遅かった、ね…」

「あー、残業が長引いてさ」


見え見えな嘘をつく刃佳。

でも…


「そっか…」


この男を未だに好きな私も、大概か。

そう思うと、自然と落ちていく目線。

私は刃佳の足元を見つめる。


「風呂はいってきていい?」

「ビーフシチューできてるよ、温めるから食べる?」

「いや、食べてきたからいい」


せっかく上手にできたのに…

その時、私の目に口紅のついたシャツが写った。

いつもだったら、そんなこと気にならない。

けど、その日だけは違った。


「食べてきたって女の人と?」


そう言ってすぐ、私はすぐに正気に戻った。

刃佳の顔は明らかに不機嫌で染まっていた。


「ちがっ、ごめ…」

「もういい、寝る」

「ごめ、刃佳!」


バタンと閉められた扉。

私はその場にあったメサペインをありったけ口に含んだ…

と同時に襲ってくる眠気。


「は、か…」


私はその場に倒れたのだろう。

もう、なにもわからなかった。

ただ、私はもう、刃佳の心にはないことを、知っただけだった。