「本気なんだけどな、まぁいいか。きみは、王子の惨い仕打ちにもめげることなく、誰を恨むこともなく、自分の力で領地を改革し、民を幸せにするために頑張っている。魔力や魔獣について詳しく学べば、もっと効率よく多くの人を幸せにできるんじゃないかな、と思ってね。聖女とはきみのような人のことを言うんだよね」
 そんなふうに評価してもらえていたとは思ってもみなかったアリサは、目をまん丸にしたあと、ぽろりと涙をこぼした。
「美しい涙だなぁ……」
 皇太子は、アリサの涙をそっと指先で拭う。アリサの頬が、赤くなる。
「お礼に、わたくしに出来る範囲で殿下と殿下のお国の皆様を幸せにいたしますね!」
「……お? 聖女にでもなってくれるのかい?」
「殿下のお国は大きいのでわたくしごときでは力が足らないでしょうけれど、わたくしでよろしいのでしたら、いつでもご命令ください」
 やった、と皇太子は思わずアリサを抱きしめていた。思わぬ逞しい胸と腕に抱きすくめられ、
「で、で、殿下……」
 あああ、と、アリサも真っ赤になった。
 なぜか心臓がどきどきする。殿方とはこんなに逞しいのか、と、はじめて知った。
 悪い気はしなかったが赤い顔を見られたくなくて、慌ててアリサは窓の外へ視線を投げた。
 いつもの精霊たちがそれを見ていたならば、大喜びで騒いだだろう。
「アリサさま、それは恋ですよ!」
 と。

 アリサはまだ知らない。
 アーデルライト皇国で即日皇王直々に大聖女を打診され、大事に大事に後宮で「大聖女兼皇太子妃候補さま」ともてなされ、次第に皇太子に絆されていく運命にあることを――。
 皇太子はまだ知らない。
 アリサが恋愛音痴であるため、皇太子妃になってほしいと口説き落とすことに大変難儀することを――。