・・・・・とは言えいまさら、帰れない。というのが非情な実情(げんじつ)というもので。



 ここまで来て、
 バスにも乗り込んじゃったけど一回、バックれる?

 それとも『風邪気味』だとか、『体調不良』を言い訳にもう一度
 連絡をとる、とか?



 ────…否さすがに。

 そんな、失礼で胡散臭さを仕掛けるほど神経は図太くない。




 ふるふると首を振り、脳内での
 ひとり問答・押し問答をただ無意味にやり過ごしていたら、

 気づけばバスは終点の駅前に到着していて。



 そして無情にも。

 車窓の外の"ソレ"を捉えると、もう、逃げることもできないのだと安易に、思い知らされる。



 チラ、────と走らせた視線。


 あからさまにバスの停車スペースだというのに堂々、4台ほどの高級車が駐車され、バスのゆく道を邪魔している様が窺える。




 さらに言えば
 後部席を降りて車体に背を預け、腕を組み優雅に佇む、
 ひとりの女性が。

 サングラスを掛けた面差しで
 こちら側をジ、と待ち構えていたのである。