「伊万里、なんかあった?」


 「…何もないけど」

 「ほんとうに何もない時は「何もない」とは言わないけどね、あんたは」

 「…いや、何もない。と言うか、……」


 「おじいちゃんおばあちゃんのことなら気にしなくていいからね。母さんのことも。
 あんたはいつも黙って、
 ほんとにしんどい時は
 口にも出さなくなってくるから。
 ちゃんと話せる相手に、愚痴でもなんでも
 吐き出して言い合いなさいよ」



 ────もちろん、母さんも聴くから、できる限り。…って言いつつ
 つい、おじいちゃんおばあちゃんのことで
 イライラしちゃって、
 伊万里に気を遣わせちゃうかもだけど。



 ・・・・・・なんて仕方なさげな微笑を携えながら、カラッと笑った母さん。


 そんな母さんに、私も口端だけは上げてみせたけれども。

 果たしてうまく、笑えていたのかは定かじゃない。



 きっと、よっぽど暗い面持ちになっていたんだろう。

 母さんの、再三「…伊万里?」と呼びかけてくる言葉にすら、何かしらの表情もつくれない。




 「────…母さん、さ」

 「うん?」



 「……大人になる、強くなる
 って、どういう事だとおもう?」