…期待したような、歓喜したような、(えつ)に入ったような彼女の────…平生(へいぜい)には見られない、溶けた表情筋。



 そうして対象となる姿が、リムジンから降り立った瞬間に明確に、その感情が最後の、悦にとどまった表情に満ち染まって


 ────気付いたときには…、




 「────カーフェイッ」




 彼女────…伊周(これちか)さんが、カーフェイさんの首裏に華奢な腕を、回しこみ猫がゴロゴロと喉を鳴らすかのごとく。

 …寄り縋る光景を、遠方から私はただ、呆然と自分の視界に、釘付けにするだけなそんな構図ができあがった、


 という場面(シーン)である。




 ・・・・・完全なる、敗北、脇役。



 非常識な介入はもしかすると、私だったのか。


 今さらどのツラも下げられず。

 かと言って、入ってはいけない彼らの空気感には、もう傍観するしかなくて。




 ・・・・・・だって、どう見たって、『久方ぶりの逢瀬を果たした恋人たち』のようなのだ。




 それは、────…カーフェイさん、も(しか)り。

 滅多に、ここまでの弛んだ笑みを私は見たこと、多分ないし見せてもこなかった、はず。



 知らない、シラナイ・・・・・彼の姿だと。

 思い知らされた・・・・・。




 (なん、か…まるで、……ドラマのワンシーン…みたい)




 漫然とした思考で、ふと投げやりな依怙地(えこじ)が脳裏をよぎり、

 その瞬間から下唇を噛むことをやめられない、…単なるエスカレートしたエゴイストだ。




 私も、────…近頃は会うことがなかった"彼"。



 冴え冴えと凍りつく彫像のような美貌、黒味のサングラスで覆われた目許は、(ネイビー)色の瞳をうかがえず。


 それにしても今日も今日とて、この距離からでもよく確認できるほどには、

 やはりカーフェイさんはいつだって、輝かしかった。