ちょうど後部席と運転席を挟んだカーテンの前方から、野太い男性の声音が恐る恐る、といったふうに失敬する。


 カーフェイが発言を許可するやいなや。

 男はひとつ、咳払いをすると「────申し上げます」と挨拶を前置き、どこか重たげに開口した。




 「今日は夕方まで職場に出勤されておいでです。先刻、数十分まえには
 すでにホテルを出られていたご様子で」


 「…あぁ」

 「ですがそのっ、…………」

 「…」

 「いっ、……ちど…、」

 「…」


 男の、────どこか煮え切らない発言の有無に、だんだんとカーフェイのまとう気配が温度を下げていく。



 それはアーウェイにしても類同。


 足を組み、太腿に肘を突き立て頬杖をついたラフモードであるにもかかわらず

 その様子はどことも知れない、鋭利(えいり)な圧を滲ませていた。



 ・・・・・あきらかに。

 彼らにとっては重要なのであろう事案を、男は口にしようとしているのだ。




 ────…しかし果たして。


 現段階で報告しても良いものか。

 はたまた、判断を誤りたとえ尚早(しょうそう)であっても早期のタイミングで、報告するべきであったのか。



 いまさら後悔先に立たず。

 男は意を決し、非常に重苦しい含みを携えてしずしずと口火を切った。




 「………いちど、……ホテルまで引き返された、ようで」




 刹那、────…ヒュ、ッ。と。


 空気が一気に。

 凍っていくような気配に変わった。