────…ヒュオォオオーー。と吹雪のような突風が、頬をなぐり髪までさわぁっと巻き上げていく。



 それがからだ全体にも作用し、上体が後退しかけたので慌てて、私は丹田(たんでん)に力を込めた。

 「ぅんっ、」と奥歯を噛み締め、目蓋も閉幕し、目に潤いをのせなおすと
 もう一度、目蓋を開かせて。




 …視線を、気になる

 彼らのほうへと、自ずから誘導させるけれども鳴り止まない動悸は、『否』をしめしている。




 「……、」




 ふたたび、────…取り入れた光景。



 私といる時もたしか、常に
 護衛として傍に、寄り添ってくれていた黒服の、


 よく見知った2人組が"彼女"を、追陪(ついばい)するようにして囲いどうやら、車中へ。と、
 促している様子であった。




 でもその直後────…だ、




 がちゃ、




 黒塗りのリムジンから、後部座席の扉が外側に開放され上質な
 スーツを着用した長い脚が、コンクリートのうえへ、ゆったり着地する。




 ・・・・それは。

 ・・・・・私がよく知った人物の、足下。




 「っぇ………」




 ふわり、緩やかに吹いた風流が、絹糸のようなグレーブラックの髪を
 とおり過ぎ。


 彼の、人外的な優美さを誇るがごとく、冷たい大気は、鋭さを軽減させていく。




 「────…カーフェイ、」




 突風が止んで、
 ────…より鮮明に響きとどいた女性らしい、声音。


 常ならば凛として、とても落ち着き払った彼女の、淡々としたトーンは、

 今回のはすこし、含まれているイロが違うように窺えた。



 護衛の彼らに向いていた、濁り混じったグリーンアイが、"彼"を捉えた瞬間、────…表情も瞳のイロも大きく揺れうごいた気がして。


 その揺れを、微かにも
 こちらからも窺えた直後にはすでに、"その存在"のほうへ移動していた。