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 ────…高級車のなかに乗車するよう誘われて、乗り込んだはいいものの
 更に、詰めるように隣りに乗り込んで来る姿に(いささ)か、困惑する。



 同乗しているのは、その女性と、

 …助手席に黒スーツの若干、壮年らしい男性が、もう一人。




 ・・・・・すでに圧迫されたような空気感だ。




 (……なに、なんっ、)




 動揺に目をあちこちに走らせ、視界に捉える車内の内装やシートの質感、

 他所のひとの匂い、などありったけの情報をあつめて自身を落ち着けるべく。


 現状況を、閲するけれどもまったく、警鐘は鳴り止んではくれない。




 そんな、折だ────…。


 隣りから「手短に話させていただくわね、」と流暢(りゅうちょう)な口上を述べられたのは。




 「貴女、最近カーフェイ様のお傍によく、いらっしゃるようね?昼夜問わず」




 ・・・・・・カーフェイ、『様』?



 どこの時代劇かと、耳慣れない呼び方に、一瞬は眉間に皺を寄せ熟考したが、

 ともかく持ち直した私は肯定するべく「あ……はぃ、」といちおう、返答を口にして、



 ・・・・・否、そもそも────…。

 『傍によくいる』とは、どんな意味をこめて、どんな正解を求めてこの人は尋ねてきてるのだろうか?


 恋人同士の『ソレ』ならば、答えは『否』だ。

 しかし、ただの知人の『ソレ』だと応答するには、私はまだ、このひとを知らなすぎる。



 不用意なことばを切り返せば、何がキッカケで彼女を激情させるかわかり兼ねない。




 それくらいな、ナニか。

 得体の知れない雰囲気が滲みでている。




 「失礼ながら調べさせてもらったのだけれど、貴女のご家庭、────…ずいぶん複雑なようで。相当な苦労もなさったんですってね。お父様も先立たれて、」


 「っそ、…の話。は……ッ」



 いい。じゃないですか、そちらには関係ない。…と真正面きって挑める、ほど。

 強くもない私が口にできたのは、結局、そこまでだったけど、



 ・・・・でも、まったく第三者の彼女が土足で、ウチの家族のことにツッこむことは。

 いくら富豪のひととは言えどさすがに、非常識ではないか?