謎の橋があったから渡っただけなのに…。
「なんでこうなるんだよぉ~っ!」
近くにいる、俺と同じ幽霊たちだけがこっちを向いた。
俺らは幽霊だ。
やっとのことで成仏できて、あの世ライフを楽しんでたっつーのにさ。
「おい、うるせーぞ、オト。」
と言ってきたのはあの世でできたダチのカンタロー。
カンタローはいつも冷静沈着で、慌てん坊の俺を落ち着かせてくれるんだが…。
今回ばかりはそうはいかない。
「カンタロー。てめぇ、何でそんな落ち着いてんだ?この状況、誰がどう見ても相当ヤベェだろ!」
「そんなこと分かってんだよ、俺だって。でも、今ここで慌ててもしゃーねーだろうが。」
「そりゃそうだけど…。俺はなあ、成仏に10年かかったんだぞ!」
周囲が俺をかわいそうなやつみたいな感じで見てくる。そりゃそうだよな。こんなにかかるやつも珍しいから。
「お疲れ様。俺はたったの1日だったけどな。」
カンタローが鼻で笑ってきて、ますますイラつく。
「あぁん?喧嘩売ってんのか、お前。」

「はいはいはーい!オト、カンタロー、もうやめなって!みんな怖がってるんよ?オレからすれば、いつもの光景なんだけどね~!」
「「アッシュ!!」」
俺とカンタローの声が見事なまでにハモった。
アッシュとは、俺らのダチだ。金髪色白で、アメリカ人とフィリピン人のハーフ。だけど、死んだ場所が日本だったから、日本語がしゃべれる。あの世では、死んだ場所の言語しか頭の中の記憶には残らないのだ。
「お前もかよ、アッシュ!」
「うん、そう~!よく分かんないけど日本に帰ってきちゃったね!まあ、オレ死んだとき、旅行でジャパーンに来てただけだったけど~!」
「アッシュはどこまでも楽観的だよな。」
皮肉めいた感じで言ったはずなのに、アッシュはあの輝かんばかりの笑顔を向けてきた。
「あれ~?オト、嫉妬しちゃってる?ていうか、やっとジャパーンって言えるようになったのほめて~!」
「やだね。」
「おいおい、オト。すねんなよ、かっこわりーぞ。」
「すねてねぇから。こっち見んな。」
「もう!また喧嘩始めないでよ?みんな困ってるんだからさ。ですよね~、皆さん!」
みんながうんうん頷く。

「だったら、今から作戦会議始めようぜ!おれ、こういうの嫌いじゃねーんだ。」
坊主で耳にピアスをつけた、ちょっとチャラい感じのヤツが声を上げた。
「あたしもさんっせー!めっちゃくちゃおもろそうじゃん!何すんの、作戦会議って!」
お次はポニーテールにタンクトップ。髪はあーらら、オレンジ色。メイクバチバチの山姥ギャルのご登場!
「おっほん!まずは自己紹介からいたしましょ!」
そういったのは、恐竜のぬいぐるみとおもちゃの銃を持った小1くらいの男の子。
「あーかん、あかん!そないなことして、どないすんのや。坊主頭の若いの、何かええ意見あるんか!」
大阪のおばちゃんにそう言われ、怖じ気づいたあのヤツはビクビクしながら答えた。
「な…ないっす。」
「なーんや!しょうもないな!自分、言い出しといて、な~んも考えはあらへんのか。しょーもな!ショーもないわ~!」
大阪のおばちゃんにボロクソ言われ、あのヤツは落ち込んでいる。
「おばちゃん、そんなことどうでもいいからさ、まず自己紹介しない?僕、みんなの名前分かんないもん。」
男の子がそう言うと、大阪のおばちゃんの許可より先に、山姥ギャルが口を開いた。
「はーい!あたし、ユメちゃんでーす!ユメちゃんって呼んでね~!指ハート攻撃!キュンキューン!」
「僕もやる~!キュンキューン!僕の名前はコタローです!コタ君って呼んでください!」
「おいおい、抜け駆けは許さねー!俺はこの坊主頭が示す通り、野球部のエースだったナオトだ!ナオって呼べよ!」
「じゃ、オレも!オレ、アッシュ!よろしく~!」
「俺は冷静沈着が取り柄のカンタローだ。よろしく頼むぜ!」
「しゃあないねぇ。あっしは、たこ焼き大好きおばさんのマチコ。しょーもな、が口ぐせや!」
「私は、こんな年老いたじいさんで、ここに入っていいのか分かりませんけど、マサヒデと言います。マサじいと呼んでください。」
「マサじい!あたしは仲間外れが嫌いなギャルで~っす!心配せんでええよ~!」
「ああ、ありがとうございます。ギャルさんは、意外と性格がいいものですからね。ユメちゃんさんも、きっとそうなのだろうと…。」
言っている最中に泣き始めたマサじいに、みんな困惑中だ。
「おにーちゃんは?」
コタ君に声をかけられたことに気づいて、慌てて顔を上げる。
「え、何?」
「だーかーらっ!おにーちゃんの名前は?」
「ああ、そのこと。オト。」
「オト?」
「ああ。オトだ。」
「変な名前。」
「なっ、何だとぉー?」
「オト、子供相手に喧嘩はやめろ。」
カンタローにそう言われ、我にかえったが怒りはおさまらず、コタ君に向けた笑顔は恐ろしいものになってしまった。
「おっ、おにーちゃんコワイ…。」
「オト、おぞましい顔してんぞ。」
「オトさん。そういうときは、口角を上げるのではなくて、目を細めて頬肉を上げるんです。」
「だっ、誰だ?てめぇ。」
いきなり現れた超生真面目そうな大学生。メガネに整った髪。いきなり敬語でしかも白衣。手にはフラスコ。
「驚かせてしまったならすみません。僕は生前、理大の研究生で、死んでからは透明になる薬を開発したんです。」
「それが、それ?」
俺はフラスコに入っている紫の液体を指差して言った。
「そうです。ちなみに、僕はリカオと言います。よろしくお願いいたします。」
「おっ、おう!頼むぜ!」
「リカオ、よろ~!」

「ていうかさ、これから俺らどうするん?」
ナオの言葉に全員がハッとなる。
「作戦会議や、作戦会議!せやけど、しょーもない会議ならせーへんで!」
「だーいじょぶ!リカオがおるやん!ね~、リカオ。」
「えっ、ああ、うん。」
「あたしら、恋人なんよ~?」

「「「「「「「は?」」」」」」」
見事に声がそろった。
「だれと、だれがや?」
「ん?そりゃもちろん、あたしとぉ、リカオが。」
「えぇー!?待て待て!お前ら付き合ってんの!?」
「ウッソだぁ~!僕は信じないぞ!ホントだったらこの銃で心臓打ち抜いてやるー!」
「皆さん、失礼ですね。人は見掛けで判断するものではありませんよ。」
「リカオ兄ちゃん、それ、どーゆーこと?」
「コタ君にはまだちょっと難しかったかもしれませんね。つまり、本当に僕とユメは付き合っている、ということです。」
その場に沈黙が流れる。
それを破ったのは、アッシュだった。
「何でみんな、そんなにビックリしてるの?誰と誰が付き合ってたって、それは個人の自由だとオレは思うけどな~!」
「だよね~、アッシュ。みんなビックリしすぎ!こっちがビックリしちゃったし。」
「まあ、この件についてはこのへんにしておいて、僕から1つ提案があります。」
「なになに~?リカオのオピーニオンなら、オレ、安心して聞ける~!ねっ、オト、カンタロー。ていうか、誰かオレがオピーニオンって言えるようになったのほめてよ~っ!」

と、いうことで。
それから1ヶ月、僕ら9人(9体)はこの世に帰ってきてしまった原因を探し始めた。俺も、いやいやながら、あの世に帰りたい一心で探し続けた。
そして1ヶ月後、原因は虹だということが分かった。虹はこの世とあの世を繋ぐ架け橋になっていて、いつもは閉まっている虹の門があの日だけ開いていたのだ。
つまり、虹の門を開くことさえできれば、あの世に帰れる。だが、みんなで一斉に帰るんじゃあ、面白くない、とナオが言い出して、バトルをすることになった。そのチャンピオンが、帰れるということだ。
しかもめんどくさいことに、1体につき1人、人間の護衛をつけて戦うことになった。人間の護衛の体に1つでも傷をつけることができれば勝ちだ。

こうして、味方同士だったはずの9人(9体)は敵同士になり、謎のバトルが開幕したのである。