りーと過ごして長い年月がたった。
 そしてりーは二度と帰らない旅路についた。
 人は皆避けて通れない道だ。
 式を済ませると私はひたすら部屋にこもり続けた。
 隣を見ても朝起きてももうりーがいない。
 この世のどこにも。
 りーに会いたい。
 ただりーの声が聞きたかった。

 ガレージにはりーの子供たちが開発したタイムマシンがあった。
 タイムマシンを使えばりーに会う事ができる。
 りーの若い頃にだって行ける。
「のえるちゃんの過去が欲しい。若い時ののえるちゃんに会いたい」
と、りーは言っていた。
「若い時の私は今と違うからりーは私の事好きにならないと思うよ。」
と私は答えたが、
「俺は100%のえるちゃんを好きになる。」
とりーは言った。
 タイムマシンを使えば、私達の過去を変える事もできるのだろうか?
 そうしたら別のもっと素敵な未来もあったのだろうか?
 少なくとも一緒にいられる時間はもっと長く引き延ばせたかもしれない。
 私は考えた。
 タイムマシンは一度しか使う事ができない。使用する燃料が特殊な物質なためだった。
 元々りー達がタイムマシンを開発した理由は、戦後の子供たちにお菓子を配るためだった。
 それはりーの夢だった。
 ささやかな幸せを人に与えたい人だった。

 私は何ヶ月も部屋にこもって考えた。
 そうしてついに私は部屋を出た。
 持っているお金の半分を使って山ほどのお菓子を買い、タイムマシンに積み込んだ。
 それから一度しか押せないボタンを押し、過去へと向かった。

 一ヶ月後、子どもたちに全てのお菓子を配り終えた私は現代に無事帰還した。
 タイムマシンの扉が開いたとき、私は気づいた。

 出発前よりも、世界には少しだけ優しい風が吹いていた。かすかにだが確かに、明らかに、世界は前よりも、優しさに満ちていた。