加藤、スタジオに置かれている椅子に座っている。その前に座るアナウンサー。観覧席には、多くのファン。

「柔道団体金メダルを獲得しました加藤選手にお越し頂きました。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

キャーきゃーぎゃああ。

僕がそう言うと、観覧席にいたファンたちが完成を上げる。

僕は、オリンピック後、連日テレビ局へ足を運んでいる。

メディアの取材を受けるためだ。

僕の名前は、加藤隆、34歳。

今回のオリンピックで柔道団体金メダルを獲得した。

前回のオリンピック前、前回のオリンピックでは、自分の階級で金メダルを獲得し、2連覇を果たすことができた。

だが、今回のオリンピックでは個人でメダルを獲得することはできなかった。

このオリンピックを最後に引退を決意している。

「今日も多くのファンの方々にお集まり頂いています。今SNSでは、加藤選手かっこいい!と話題になっています。それについては、どうお考えですか?」

最近、若手のアナウンサーとして注目が集まっている渡辺みなみさんが僕にマイクを向ける。

オリンピックでメダルを獲得したことで、柔道に多くの関心を寄せてくれる事は非常に嬉しい。

だが、最近感じているのは、競技に関心を持っていると言うよりかは、僕のこの端正な顔立ちが関心を呼んでいるそうだ。

早い頃から自分の顔面は他のとは違うと言う事は感じていた。

近所のおばちゃんからも可愛がられたし、中高では、学校内の皆が特に対して感性を挙げていた事は気づいていた。

よく顔の凝りが濃いことからかとよく聞かれるが、ハーフではない。

「そんな加藤選手に多くの質問が届いています。加藤選手は、現在彼女は、いますか?とのことです。」

僕は柔道で正当な評価を受けたいとずっと思っているが、どのメディアに出てもこのような質問ばかりされる。

僕は思わず苦笑いをしてしまう。

「すごい直球ですね。」

「すみません。」

「いえいえ。実を言うと、もうしばらく彼女は、いません。」

「そうなんですね。意外です。モテそうなのに。」

「いえいえ。僕は、つまらない人間なので、モテないです。」

そうだ。

僕は高校時代に付き合った彼女がいたのだが、その彼女と別れてから、恋に本気になったことがない。

その後も、彼女を作った時期もあれば、作らない時期もあったり、遊んだ時期もあった。

僕は、恋に不器用なのだ。

「加藤選手は、一途なんですね。」

「そ、そうですね。」

僕は苦笑いをするしかなかった。

「そんな意外な一面が分かったということで、最後に応援してくださった皆様にメッセージをお願いします。」

僕は、さっきのメディアに答えたのと、同じような文章で、最後のコメントを終えた。

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」

僕は渡辺さんにお礼を言い、この場から立ち去ろうとした。

「あ。」

目の前に池田がいた。

僕たちを2人には、気まずい空気が漂った。

「ゆい。」

「うん。」

「久しぶりだな。」

「だね。」

池田は、下を向き、僕とは目も合わしてくれない。

「今から取材?」

彼女は静かにうなずいた。

僕は今度こそ彼女に言おうと、長年を持っていたことを言おうとした。

「今度さ、時間あったらさ…」

「池田選手。スタンバイお願いします。」

ADが彼女に近づいてきた。

「分かりました。じゃあ行かなきゃ。」

「お、おう。またな。」

「うん。」

そう言って、彼女はスタジオへと向かった。

いつも彼女と僕の間には何かが邪魔をする。

ときには、環境というものが邪魔をするし、人が邪魔をする時もある。

そんな月日を過ごしているうちに、16年と言う月が経ってしまったのだった。

そう。

僕は高校3年生の時に同じ部活メンバーだった彼女と付き合っていた。

僕はまだ彼女のことが好きなんだと思う。

今度こそ伝えようと思う。

彼女に本当の気持ちを。