真っ暗な店内。

ギリギリ照明がついているか、ついていないか分からないような薄暗さ。

僕は、以前彼を見かけたレストランを訪れていた。

店内のあちらこちらには、テレビで見たことのある芸能人ばかりだ。

もちろん記者らしき人も紛れている。

カメラを隠し持っていそうな男性の顔を一人一人確認する。

おさむは、いないようだ。

人混みを掻き分け、バーカウンターの方へと向かう。

バッ

その途中で誰かにぶつかる。

メガネにセンター分け前髪。

長身の男性。

手にはカメラを持っていた。

「おい。」

気づくと声をかけていた。

彼は、僕の顔を見ると、逃げるように走り去った。

僕は、急いで彼を追いかける。

僕は、スポーツ選手だ。

オリンピックチャンピョンだ。

舐められては困る。

すぐに追いつき、彼の肘を掴んだ。

「…」

「おい。俺は、分かってるんだからな。お前が記事を書いたってこと。」

彼は、焦った様子だった。

「俺も仕方なかったんだよ。妻と子どもを食わせていくには、これしかなかったんだよ。」

「そんなこと知らねーよ。記事を撤回してほしいんだよ。お願いだ。アイツの柔道人生のためにも。」

「そんなこと今さら無理だよ。」

「お願いだよ。」

僕は、その場で土下座をする。

「俺だって人生かかってるんだよ。それ以上のネタを提供してくれないと、無理だよ。」

「わかった。それ以上のネタを用意するよ。」

僕は、彼女を守るために自分を犠牲にすることに決めたのだ。