「あ!池田さん!」

とうとうやってきた金曜日の夜。

ネイビーのスーツにネクタイ。

少し乱れた髪。

彼は、仕事終わりのようだった。

「お待たせしました。」

私は、1週間以上ぶりの外に内心緊張していた。

そして、サングラスにマスクをして、あたりをキョロキョロと見渡した。

私は、あの報道以来、周りの目が怖くなってしまった。

いまだに連日寮の前には、大勢の報道陣。

テレビをつけると、アナウンサーやコメンテーターたちが私の話をしている。

私の知らない誰かが私の悪口を毎日言っている。

そんな恐ろしいことは、ない。

「こちらへどうぞ。」

私たちは、個室へと案内された。

「お飲み物どうされますか?」

「あ…麦茶で。」

私は、彼に別れを告げようと考えていた。

これ以上彼には、迷惑をかけられない。

「私たち、別れましょう。」

私がそう言うと、彼は、黙った。

「もしかしてあの男が好きなの?」

しばらく経ってから彼がそう言った。

「違います。」

「じゃあ報道のこと気にしてる?それなら僕は、池田さんのこと信じてるから。」

「そうじゃないんです。」

「じゃあどうして?」

賢斗さんは、少し怒っていた。

私は、正直恋愛自体に嫌気がさしてしまったのだ。

もう傷つくのは、嫌だった。

賢斗さんがいい人だというのは、わかっている。

でも今回のことがあって人を信じることができなくなってしまった。

そのことを彼に告げると、

「あの男のことは、信じることができるの?」

「…」

彼のこの言葉に私は、何も言い返すことができなくなってしまった。

「僕には連絡できないのに、あの男には、すぐに悩みを打ち明けられたんでしょ?それにこの期間もずっと一緒にいた。」

「そ、それは。」

「それが答えだよ、池田さん。」

「え?」

「池田さんは、あの男のことが好きなんだよ。気づいてないと思うけど。」

私が原のことを好き?…なの?

確かに誰にも言えなかったことを原にだけは、言えた。

そうなの…かな?

彼の言葉に動揺してしまう。

「じゃあ僕は、これで失礼するね。池田さん、幸せになってね。」

彼は、テーブルに代金を置いて、レストランを去ってしまった。

私は、しばらくこの場から動けなくなってしまった。