私は、職場にやってきた。

私が働く新聞社では、社会部門、芸能部門、スポーツ部門など様々な部署がある。

私は、その中のスポーツ部門に属している。

選手たちのインタビューや、実際に試合を見に行き、レポを書いたりなど仕事内容は、多岐にわたる。

「おい!お前、池田選手の寮に行ったのか?」
「はい。行きました。」
「池田選手の父親にインタビュー取れたか?」
「いや、まだです。」
「さっさとしろよ、じゃないと他に取られるぞ。」
「はい。急ぎます。」

私の目の前を上司らしき男と部下らしき男が走っていた。

芸能部門の先輩たちだ。

ここ数日、芸能部門が大忙しなのだ。

柔道オリンピックチャンピョン池田由衣選手の不倫騒動のせいだ。

彼女は、オリンピックチャンピョンでもあり、私の同級生でもあり、そして恋敵でもあった。

もう16年も前の話になるが。

芸能部門の前を通りかかると、1人の男性がテーブルで優雅にコーヒーを飲んでいた。

センター分け前髪が特徴の先輩。

「お疲れ様です、先輩。」

「ああ、笹原か。」

1個上の先輩、加藤おさむさんだ。

「今回の記事、先輩が書いたんですか?」

「そうだよ。」

彼は、私の顔なんて見ずにコーヒーを飲みながらパソコンを見ている。

「最低ですね。まるでハニートラップじゃないですか。」

「仕方なかったんだよ。他にネタがなかったからさ。」

この先輩は、わざわざ自分からゆいちゃんに近づき、仲間に写真を撮らせ、熱愛記事を作った。

挙げ句の果てには、自分が既婚者であることも掲載し、不倫報道にした。

なんと最悪な奴なんだ。

「ハァ」

私は、ため息しかつくことができない。

「お前に言われたくねぇよ。お前の方が悪質だろ。」

先輩は、私にこう言ったのだ。

そうだ。

私の方が先輩よりも最悪なのかもしれない。

これからしようと思っていることは。