ずっと先輩のことを見つめてるだけで良い。

そう思っていた私に転機が訪れた。

「ゆい。髪乱れてるぞ。これあげる。」

あの日、先輩が私にプレゼントをくれた。

「え?これ私にですか?」

「ああ。ゆいに似合うと思って。」

プレゼントをもらう先輩は見てきたが、先輩が誰かにプレゼントを渡す姿を見たのは初めてだった。

私は我慢ができなくなってしまった。

「先輩って誰にでもこんなことするんですか。だから先輩は、モテるんですか?なんで先輩は、私なんかにも優しくしてくれるんですか?」

気づくと、こう口にしていたのである。

「ゆい、どうしたんだよ?」

こんな取り乱した私を見て、先輩は焦ったような表情を浮かべていたのを覚えている。

「あ。す、すみません。今言ったことは、忘れてください。では私行きます。」

私は慌てて更衣室へ向かおうとした。

「ゆい、待てよ。」

先輩が私の手を引っ張った。

「先輩?」

先輩が私の腕を引っ張り、振り向かせた。

「忘れることなんてできる訳ないだろ。」

先輩のお顔は少し赤くなっていた。

「え?」

「俺は、ゆいのことが好きだからだよ。他の誰でもないゆいのことが好きなんだよ。」

先輩の顔は再び赤くなっていくのを感じた。

「先輩?」

「俺は、誰にでも優しくする訳じゃない。好きだからなんだ。分かってよ。」

「先輩。」

「ゆいは、どう思ってる?」

「え?」

「俺のことどう思ってる?」

先輩のこと?

私は…

「好きです。私も先輩のこと大好きです。」

そう言うと、先輩は私を抱き寄せた。

こうして私たちは、付き合うことになった。

でも、私たちがうまくいくはずがなかった。

何故かと言うと、先輩は人気者だからだ。

道場の外で、私たちの姿を見つめるある女性。

「なるほどね。許さない。」

そう言って、拳を握り潰す。

私たちのこんな姿を誰かが見ていたなんて、この時は思いもしなかった。

幸せな日々が始まると思っていた私は、甘かった。

先輩の人気を舐めていたのかもしれない。

当然の如く、嫌がらせが始まったのだ。