デートから1週間経った頃。

私はいつものように、女子更衣室にいた。

「先輩どうしたんすか?」

ずっとスマホの画面を見つめていた私を見た南が話しかけてきた。

あの後、私は理さんにお礼の連絡を入れた。

だが、あれから1週間が経つのに全く返事が返ってこなかった。

私は何かしてしまったのだろうか。

やっぱり食べ物がつく私を見て引いたのかなあ。

返信を待てば待つほど、その日の自分の反省会が脳内で行われていた。

そのことを南に話すと、

「いや、忙しいんじゃないですか?」

と、言った。

「私たちスポーツ選手にはわかんないですけど、会社員の方って忙しい時は忙しいって言いますもんね。」

私たちの会話を着替えながら聞いていたふみちゃんも会話に入ってきた。

私たちスポーツ選手は、今はオフシーズンだ。

会社員の方々は、オフシーズンというものがない。

忙しい時は忙しいのだろうか。

連絡が返ってこない事は非常に気になったが、もう少し待ってみようと。

そう思ったのだった。

そして、いつも通り練習終え、道場を出ると、辺りは真っ暗になっていた。

もう夜になっていたのだった。

私はいつも通り寮へと向かう。

道場から寮は、そんなに遠くは無い。

徒歩5分圏内だ。

カサカサカサカサ。

なぜか物音がした。

私は慌てて後ろを振り返った。

だが、誰もいない。

最近なぜだか、誰かにつけられているようなそんな感覚がずっとしていた。

寮は、すぐそこまで見えていた。

私は急いで寮まで走り出す。

すると、物陰もものすごいスピードで追いかけてくる。

私は泣き出しそうになりながらも、必死に足を進めた。

私はアスリートだ。

足は速い。

何とかついてきている人が、私に追いつく事はないだろう。

しかし、恐ろしさが勝った。

寮の玄関まで着くと、ある人影が見えてきた。

青い柔道着を着ている男性。

原だ。

私は、思わず、原に抱きついた。

「おい、どうしたんだよ?」

原は私の顔を覗き込んだ。

「大丈夫か?」

原は私の顔を見ると、心底心配してくれた。

私の目には大粒の涙。

試合で負けても決して涙しない私が泣いているのだ。

そんな私を見て心配してくれているのだ。

「誰かにつけられてた…」

「は?どういうことだよ。」

帰り道にあったすべてのことを原に話した。

全部話してほっとしたのだろうか。

私は再び泣き出してしまった。

うぇーーんんん。

32歳になって恥ずかしい。

その日はずっと泣いていた。

原に抱きつきながら。