私は小さく息を吐く。

慣れないコテで髪を巻いた。

首を少し火傷してしまった。

慣れないネックレスのせいで少し息苦しい。

手にはリング、ブレスレット。

花柄のワンピース。

少しヒールのある靴。

この全てが、私を緊張させた。

「池田さん!」

遠くから彼がやってきた。

「池田さん、お待たせしました。」

天神、真っ黒のコーデ。

黒いロングコート。

白Tシャツに、ネイビーのパンツ、高そうな靴。

センター分けの前髪。

今日は韓国風のファッションだった。

「今日の髪型可愛いね。」

「ほ、ほんとうですか?」

「うん。ワンピースもよく似合ってる。」

「あ、ありがとうございます。」

私の体温は一気に上がった。

理さんは女性が欲しい言葉をくれる。天才だ。

私を柔道家ではなく、女性にしてくれる。

「行きましょうか。」

「はい。」

私は、彼に必死について行った。

彼の背中を持っていると、イタリアンのお店に着いた。

そのお店に入り、私たちはテーブルに着く。

「うわぁ〜!美味しそう。」

テーブルの上には、ピザ、パスタなどの料理がずらりと並べられていた。

オリンピックのために食事制限をしていた私にとっては、至福の時間だった。

イタリアなんて何年ぶりだろうか。

私はテーブルの上にある料理にしか目がいかなくなってしまった。

全神経がそこに注がれていた。

私はピザに手をかけてから、食欲というものが止まらなくなってしまった。

次々と食べる手が止まらなくなってしまった。

「すごい食べっぷりだね。」

「あ!すみません。」

理さんの声が聞こえてくるまで、夢中になって食べてしまっていたのだった。

これはデートだったのだ。

私の馬鹿。

いつもの癖でガッついてしまった。

引かれたかな?

「僕は、美味しそうに食べる池田さん、素敵だと思うよ。」

おさむさん…。

おさむさんとだったらありのままの私でいられるかもしれない。

改めて感じた瞬間だった。

プルルルルプルルルル。

おさむさんの携帯が鳴った。

「ごめん。仕事の電話だ。」

彼はスマホの画面を見て、どこかへと行ってしまった。

私は、引き続き食べ続ける。

おいしい。

こんなに美味しい食べ物食べたの久しぶりだなぁ。

しばらく時間が経ち、私のお腹は満腹になってしまった。

なかなか理さんが帰ってこない。

私は席を立ち、理さんを探しに行った。

すると、理さんをトイレの前で発見した。

「ああ。とりあえず見張っておけ。分かったな?とりあえずバレないようにな。」

彼は電話で誰かと話し込んでいるような様子だった。

しばらく実と寒さの方を見ていると、おさむさんが私に気づく。

「じゃあそういうことで。ああ。きるぞ。」

なぜか、理さんは慌てたように電話を切った。

邪魔してしまったかなぁ。

私に気を遣って電話を切ったのかもしれない。

申し訳ない気持ちになってしまった。

「す、すみません。」

「お仕事の電話ですか?」

「ええ。」

この時、私はある違和感に気づくことができなかったのだった。

あまりにも、彼のことを信用しすぎていたのかもしれない。