「ここでまたややこしいのがさ、原さんがさ、先輩のことを好きだってことなんだよね。」

毎日の光景。

私たちは、女子更衣室で恋バナをする。

メンバーは、たいてい同じだ。

先輩の4つ下の私佐久間みなみ(28)、7つ下の中村ふみ(25)、12つ下の山本さゆみ(20)の3人だ。

私たちは、恋バナが大好きだ。

しばらく中村ふみと同業者の彼氏の話で盛り上がっていた私たちの恋バナ。

最近は、先輩の恋バナで盛り上がることが多くなってきたのだ。

整理すると、

まず池田由衣先輩(32)は、オリンピック後のインタビューで婚活宣言をした。

そして、実際に婚活を始めるために、マッチングアプリを始め、おさむさんと出会った。

それを機に先輩の高校時代の先輩である加藤さん、同期である原さんも先輩の恋人候補に参戦してきたってわけだ。

今日は、その原さんについて話しているのだ。

「原さんってさ、基本柔道以外は、興味ありませんって感じじゃん、クールだし、無口だし、だけど何故か、先輩とは、よく話してるんだよね。」

さすがよく見ている、ふみちゃん。

後輩なのに感心してしまう。

「たしかに。しかもいつも先輩の隣をキープしてるし、先輩の些細な変化にもすぐ気づくんだよね。」

私の頷く首は、止まることを知らない。

「じゃあ原さんと付き合えばいいじゃないですか。先輩、柔道に理解がある人がいいってこの前言ってたし。」

「たしかに。」

私は、気づくとそう口にしていたのである。

私はずっと先輩の相手は原さんが良いとずっと思っていた。

何でも言い出すことができずに抱えてしまう。池田さんを長年そばでずっと見続け、先輩の些細な変化にも気づいてくれる原さん。

私は、原さんが先輩の彼氏になってくれたらいいのになと思っている。

でも、先輩は、あの事件から同業者を毛嫌いしている。

すべて加藤先輩のせいなのだ。

「でも先輩は、鈍感すぎて、原さんの好意にも気づいてないし、それに加藤さんのことがあったから、謎に柔道選手は、避けてるしさ。それに今は、婚活アプリで出会った人に夢中になってるしね。」

私が思っていることを、全部をふみちゃんが代弁してくれた。

「おさむさんでしたけ?柔道選手ってこと、隠してるって言ってましたけど、隠し通せるんですかね?」

最年少のさゆみちゃん。さすが現実主義。

「どうだろう?」

私は先輩のことが心配になってしまった。

正直、先輩の認知度は、90%といっても過言ではない。

なのに、おさむさんがそのことに気づいていないことに少し違和感が残った。

だけど最近は、テレビを見ない人も多くいる。

私は、先輩の恋が上手くいくことをひたすらに願っている。