私はテレビ局から外に出た。

私はさっきの出来事をずっと考えていた。

加藤さん、何を言おうとしてたんだろ。

もしかして私を誘おうとしてた?

いやいやもう私たちは、別れたんだからそんなことないよね。

うんうん。ないない。

だって私たちあんな別れ方したのに、あり得ないよね。うん。

それにもう16年と言う月が経っているに。

私だって、もう前を向きたいと思ってる。

うん。

視線を前のほうに向けると、誰かが猛スピードで走ってくるのが目に見えた。

次第に人物が青い服を着ていることがわかった。

見覚えのある服だった。

柔道着だった。

「池田。」

「え?原。どしたの?」

チームメイトの原。

手を膝上に置きながら、必死に息を吸っている。

急いでここまで来たみたいだった。

「いやジャンボから加藤さんと取材一緒だったって聞いて心配でさ。」

彼の額には大粒の汗が光っていた。

「それでわざわざ来てくれたの?」

彼が静かに頷く。

「またお前が柔道辞めたいって言わないか心配で。」

「いやいや、いつの話よ。」

私には恥ずかしい過去があった。

高校1年生の時。

2個上の先輩加藤さんと別れた後、あまりのショックで練習に行かなくなってしまった。

原は、その時のことを言っているのだ。

「大丈夫か?なんか言われてないか?」

原は、まるで私を恋人かのような優しい表情で見てくる。

心配してくれているのだ。

「うん。挨拶しただけだよ。」

「なら良かった。」

「うん。心配してくれてありがとね。」

「おう。」

「…」

私たち2人になんとも言えない沈黙の時間がおとづれた。

プルルルルプルルルル。

それを破ったのは、原の着信音だった。

「やべ。監督だ。今から練習戻るわ。じゃ。」

彼は、画面を見た途端、どこかへと走り去っていった。

原は、いつも私の心配をしてくれる。

原は、私以上に私のことを理解しているのかもしれない。

私にとって兄みたいな存在だ。

ピコン。

私のスマホも音が鳴った。

マッチングアプリの通知だった。

おさむ 「今週の土曜日、会えますか?」

おさむさんからだった。

私の胸は、高鳴った。

ゆい「今週の土曜日、空いています。よろしくお願いします。」

気づくと、そう返信していた。

私の脳内は、次のデートのことでいっぱいになった。