いつもより静かな朝で部屋が明るく感じて起きる。子供のように跳ね起きて、窓まで走っていく。

「雪だーーーっ!!」

 私は嬉しい声をあげた。

『雪だるま祭り開催!』

 そう書いたチラシを配り、雪が降ったら開催することを私は触れ込みをしていたのだ。

「いやぁ、良い感じの雪が積もりましたなぁ」

 執事のクロウもいつもより声が弾んでいる。

「すでに子供たちが旅館の前に雪だるまを作り始めてましたぞ!」

『作ってくれた雪だるまのコンテストを行います。参加賞サニーサンデーまたは銭湯の割引券と雪だるま柄のタオル。優秀賞には豪華景品有り!力作お待ちしてます』
  
 チラシには盛り上げるためにそんなスパイスも取り入れてあった。功を奏しているようだ。

 朝食の焼き立てパン、ベーコン入りの野菜のスープ、トロリとした半熟卵とシャキシャキりんごを食べる。食後にゆっくりと熱いコーヒーを飲んだ。

「よしっ!腹ごしらえオッケーよ。私も参加するわよーっ!」

「えええ!お嬢様もするんですか?」

「もちろんですとも!私が楽しみたくて企画したのよ。私が参加せずして誰がする!」

 せっせと厚手のコートと手袋、毛糸の帽子、耳あて、ブーツを履く。メイドが慌てて温めた石を布にまいてくれる。

「湯たんぽがわりです!風邪などおひきになられたら大変です」

「気遣いありがとう」

 ホントは大人しくしててほしいとメイドの顔に書いてあるが……私は勇ましく飛び出した。

 銀世界。家の庭木にも雪がこんもり積もり、道が見えない。いつも通り川だけが流れている。キラキラと雪が輝いている。

「晴れてよかったー!」

「元気だな。オレは寒い。雪が嬉しいなんてお子様だな」

 防寒具で完全武装したリヴィオはコロコロとしていつもの2倍はある体格に見える。着ぶくれしてるよ。イケメン度合いが−3だな。

「子供で悪かったわねぇ。なに、年寄り臭いこと言ってるのよー」

「寒いのは嫌いなんだよ」

 そう言いながら、真っ白な新雪をリヴィオと踏んでいく。
 旅館の前は子供たちがたくさんいた。猫雪だるま、うさぎ雪だるま…おおっ!サニーちゃんも制作してくれてる! 
 負けられない!燃えてきたわ!

 私も早速、コロコロと雪玉を転がしだす。リヴィオは何やってるんだかと呆れていた……その5分後。

「ちょっとここ、いびつじゃね?」

「ん??」

 綺麗な丸になるように雪を削ったり足したりしている。いつの間にか真剣な職人さんのような顔つきになっているリヴィオ。

「大体で良いと思うんだけど……?」

「いいや!あと、もう少し大きくしようぜ!子どもらの雪だるまより小さくてどうする!」

 私の力ではもう転がせないほどの大きさなのでリヴィオが動かす。暑くなってきたようで、首のマフラーを鬱陶しげに投げた。私はキャッチして木に引っ掛けておく。

「……しっかりハマってるじゃないの」
 
 私は大きい雪だるまをとられたので、渋々周りに置くためのミニ雪だるまを作る。目に炭を入れていく。可愛すぎる!!旅館の玄関でお出迎え雪だるま!

 手や顔が冷たくなるが、夢中で私達は作り続けた。

 私は昼近くに旅館の仕事もあるので休憩をかねて中に入った。廊下の窓から笑い声が聞こえた。リヴィオは後から来たジーニーに雪玉をぶつけてふざけ、大笑いしていた。ジーニーは真面目な顔をしながら雪玉で反撃している。

「もう!どっちがお子様なのよっ!」

 私はお客様のお茶を運びつつ、参加したい気持ちを抑え、羨ましく思ったのだった。

「セイラできたぞ!」

 午後三時の休憩タイムになって呼びに来るリヴィオ。だいぶ長く頑張ってたわね……。

「どれどれ……どんなのを作ったの?」

 私はどうなったのか見て見るため、外にでてみた。

「えええええ!?どうやって!?あの丸いのがこうなるの!?」

 氷の氷像のようにドーーンと雪で作られた竜だ。かっこいい!迫力満点!途中から、どうやって、作れたのかわからないけど…。謎だ。

「すげーだろ!」

 得意気に言うリヴィオ。

「そ、そうね!かっこいいと思うわよ……あら?トトとテテは?」

「あのお姉さん達ならあっちだよ」

「すっごい楽しいの作ってくれたの!」

 子供たちが教えてくれる。私とリヴィオが行ってみると……うわあ。雪のお城だ!!

「これは!もはやテーマパーク……」

 階段や滑り台がいくつもつけられており、子どもたちが群がって遊んでいる。窓から顔をだせるようにしてあり、手を降っている子もいた。

「なっ!あいつら!!まさか!!」 
 
 トトの手からパリパリパリンと氷がでてくる。固められて形になる。たまに水も出して硬さ、強度を出していく。こちらも職人さんですか?と言うくらい真剣だ。

「魔法使ってるのね」

「いいのか!?ルール違反じゃねーのか!?」

 テテはその言葉が聞こえたらしく、リヴィオに言う。

「大人気ないことしてるリヴィオには言われたくないのだ」

「我々は子どもたちが喜んでくれればそれで良いのだ」

 私は耳を疑った。トトとテテがそんなことを考えていたとは!成長したわね……とまるで親のような気持ちになる。

「みなさーん!寒いでしょう。おやつです」

 料理長とトーマスが差し入れの温かいマシュマロ入りのココアを皆に配ってくれる。制作中の人達も一度手を止めて、甘くて温かい飲み物にホッと一息ついた。

「あたたまる〜!」

 終わるとまた楽しそうに仲間と作り出す。

 そうしているうちに段々と日が落ちてきた。私は籠にいっぱいのロウソクを入れて外に出る。

「それどうするんだ?」

「火を灯していくのよ」

 リヴィオにも手渡す。ロウソクを雪だるまの近くに置き、火を点ける。雪がほのかなオレンジ色の灯りに染まる。
 どんどん点けていき、最後の一本になった頃、旅館の前は幻想的な風景となった。

「へぇ……これは綺麗だな。セイラはこれをしたかったんだな」 

 そう呟くリヴィオに私は微笑む。

 お客さん達や街の人達もどんどん集まってきて、楽しげに見ている。

 コンテスト発表時間となり、私はパンパカパーン!と音付きで始める。
 審査員はクロウ、トーマス、メイド長。

「私達がしてもいいのですかね」

 審査員に選ばれた3人はやや緊張していたが、話し合いをし、決めたらしい。私に紙切れを渡す。

「じゃあ!発表しまーすっ!」

 タダダダ……ダン!テテが効果音の太鼓を鳴らしてくれた。雰囲気が盛り上がる!期待の眼差し。

「エントリーナンバー9番!エミリーちゃんのネコネコファンタジーです!」

 うわあああ!と歓声があがる。寒いのに体感温度が5度くらい上がってる盛り上がりよう。

 おめでとう!と雪だるまをキャラクターにしたペンダントを首からかけてあげる。街の商店街のお買い物券、大きい雪だるまのぬいぐるみを手にエミリーちゃんはピースサインを皆に向かってした。沸き起こる拍手。

「くっ……来年こそは!」

 リヴィオの悔しさを滲ませた大人げない呟きを私は聞かなかったことにした。

 雪だるまが溶けるまでは夜のロウソクライトアップイベントはすることにし、お客さんに楽しんでもらう。

「疲れたな。オレは風呂に行ってくる」

 リヴィオは後から来たジーニーも誘って大浴場へ行こうとする。私はそれを止める。

「あ!今日は特別室の貸し切り露天風呂使っていいわよ。そこの部屋、お客様いないし」

 イベント終了後だから、たぶんたくさん人がいるだろう。リヴィオとジーニーがラッキーと言いながら去っていった。

 しばらくして、私は特別室の露天風呂のドアをノックしようとして声が聞こえたので、止めた。

「なあ……なかなか毎日楽しくないか?」

 リヴィオだ。

「良かったな。少しリヴィオは変わった気がするな。学園の時は気まぐれだったし、もっとピリッとしていたよな。しかし一番変わったのはセイラだな」
 
 ジーニーが言う。

「ハハッ。確かに。だけど、オレは今のセイラも好きだぜ。謎めいてた雰囲気も良かったけど、ありのままの自分で好きなことをするセイラのおかげで周りも楽しく過ごさせてもらってんだ」

 私の頬が赤く火照るのを感じる。褒められてるのよね?リヴィオがそんな事思っていたなんて……。

「そうだな。この温泉も最高だ」

 男二人の会話が途切れて、私はノックした。 

「もしも~し!ちょっといいかしら?」

『はあ!?』

 二人の声がハモる。

「ちょっ!ちょっと待てっ!」

「いやいやいや、おかしいだろ?」

 焦る声が響いている。私は肩をすくめる。

「差し入れよ!ここに置いておくから、お風呂で飲んでね。お風呂に入って雪を見ながら飲む雪見酒、美味しいわよ……でも一本だけね!お風呂の飲酒は危険だからね」

「お、おう!」

 少量だが、雪見酒は楽しめるだろう。私もトトとテテを呼んでいて、今から、女子会雪見酒をする予定だ。
 
「じゃあねー」 
 
『ありがとう』

 やや機械的に言われる礼の言葉。

「おい、セイラ、オレらを男扱いしてなくねーか?」

「い、いや……どうなんだろうな?」
 
 風呂場からなにやら聞こえたが、私もお風呂へ行きたいので放っておく。

 お酒〜♪お酒〜♪と適当な歌が口から出る。雪見酒が楽しみすぎる!廊下を足取り軽く歩いて行く。

 岩の上、木の枝には白い雪がかかり、時折空からチラチラと雪が降ってきて、お湯の上に落ちて消える。

「うわぁ。なんだこれ!楽しいのだ」

 空を見上げ、落ちてくる雪を顔に受けて冷たいのだーとトトとテテ。

「はい。セイラ〜!」

 お猪口に晩酌してくれる。私もありがとうと晩酌仕返す。

 「くーっ!仕事の後の一杯がうまいわ〜」

 一口飲んで、親父臭いこと言ってしまった。
 顔が冷たいと感じたら湯気を当てて温める。お酒効果で余計にホカホカする。

「幸せねぇ〜。いつもトトとテテには無理難題を言ってごめんね」  
 
 クイッと一杯飲みながら言う。トトとテテも飲んでいるが、顔色1つ変わらない。そんなにたくさんは飲んでいないが、この二人は酒豪の予感がする。

「全然なのだ!セイラのおかげで発明が楽しいのだ」

「そうなのだ!作った物で、人が喜んでくれる物はこんなに嬉しいことなのだと、知らなかったのだ」

『ねー!』

 声を合わせて、キャッキャッと二人は楽しげに言う。

「そっか……そう言ってくれて良かったわ」

 私は少し照れてしまって、湯気に隠れるようにお風呂に浸かったのだった。
 皆、優しいな……私は好きなことをしてるのに、一緒にこうして居てくれる、助けてくれる仲間の存在が嬉しくて少し涙が出たのだった。
 恥ずかしいからお風呂のお湯を顔にかけてバレないようにした。

 嬉しい涙は人生で初めてだった。