夜になり、ソフィアの着古したドレスとサイズアウトした靴を渡されて、部屋の隅に立たされる。
無理やり履いた靴のため、足が痛くて動けない。ドレスが短すぎて歩くと靴が見えてしまうため、じっとしているしかない。
夜会は豪勢なものだった。音楽隊の生演奏、テーブルの上には私の食事では見たこともないものやもう何ヶ月も口にしていないフルーツやお菓子が並んでいた。
天井にはきらめくシャンデリアが新しく取り付けられている。祖父はお金はあったが質素な暮らしが好きな人だったから、屋敷も飾り立てるのことはしなかった。
義母であるサンドラの趣味だろう。
私が帰ってくると昔とは違い、屋敷の中もずいぶん変わっていた。
実母や祖父との過ごした思い出の家はもう無いと言ってもいいくらいだ。
「あの方は?誰ですの?」
義母の友人が聞く。相手は細い体の赤いドレスが派手な中年女性だ。哀れむような目で見られている。
私がニホンで嫌いだった小学校の時の担任に似てるわ。旅館の仕事で父や母が授業参観に来れないとわかると親なのになぜこれないのか?かわいそうな子供だと他の生徒の前で哀れむような目を私に向けて言い出したのだ。
あれは幼心にも嫌なものだった。
「気にしないでくださいませ。礼儀もなにも知らない長女ですわ。少し社交を勉強させようと思ってますのよ」
ホホホホと嫌な笑い方をする義母。耳障りな高い声である。ソフィアが私を手招きして呼ぶ。動けないことを知っていてわざとだ。
「セイラ!いらっしゃいよ。友人たちを紹介するわよ」
友人たちって私を突き落としたメンバーじゃない!と言いたかったが、さすがに公衆の面前で言うことはできない。
「おかまいなく」
何言ってるのよ。と言ってソフィアが手をひっぱり、私を連れ出す。そっと歩く私を無視して早歩きする。
「い、痛っ」
「なに?なにかいった?」
嬉しそうだ。何か反応すると余計に喜ぶので黙る。友人の中には男の人達もいた。
「アロイ!わたしのお姉さまと踊って差し上げてよ!ダンスを教えてあげて」
「えっ!?けっこうです!私はダンスは苦手ですから!」
こんな足が痛いのに踊れるわけがない。アロイと呼ばれた人はニヤニヤしている。
ソフィアの思惑を知っているのだ。私を馬鹿にして楽しむという今日の余興を!
グッと手をひっぱられて部屋の中央へ連れて行かれる。音楽が流れる。
「ご、ごめんなさい。本当に足が痛いの」
「一曲だけでも踊らないと失礼だろ?」
クルクルと私の手をとって動かし、体を回す。足が痛い。爪が割れそうである。
「やめて!」
そういうが無視される。とうとう痛みが我慢できなくて私は倒れ込んだ。周囲の人達が叫ぶ。大丈夫!?どうしたの?とお客さん達が驚く。音楽の音も止まった。
「ダンスもできない娘でごめんなさいね。ほら!立って!お客様に謝りなさい!」
義母がそう言う。私は痛みをこらえて立ち上がり、震える声で言った。
「せっかくの場に申し訳ありませんでした」
そういって部屋からようやく退場しようとするとソフィアの取り巻きの一人がわざと足を出して絡ませて私を転ばせる。その拍子にテーブルクロスを掴んでしまい、テーブルの上の物まで落ちる。皿の割れる音と銀食器の床に落ちる音が響く。
「セイラ!!なんてことを!!」
ソフィアが大げさに驚く。
「ほんとに何もできないグズな子ですの。皆様、あちらにお茶の用意をしてありますから、ここを片づけるまでどうぞ!こんなことになってしまって申し訳ないですわ」
わざとらしい!すでにお茶の用意もしてあるところを見ると二人の予定通りだったのだろう。悔しさで涙がにじむ。
「ここを片づけてからいきなさい!」
ぴしゃり!と言って去っていく。ソフィアは可笑しくてしかたないというように笑った。サイズの合わない靴を脱ぐと血だらけだった。そっと回復魔法を使って傷を治す。もう血みどろの靴は履けず、裸足のまま片づけようとして動きを止めた。
片づける必要などないと気づく。誰も見てないことを確認し、魔法陣を指先で描く。一瞬だけ光るとテーブルは何事もなかったように元通りとなった。
久しぶりの魔法だった。
父は女が知識をつけたり、小賢しい魔法を使ったりすることは大嫌いなのだ。目の前で使えない。家へ帰ってきてからは一切の魔法の使用をしていない。
エスマブル学園へ私を入れたのは祖父の方針である。逆にソフィアの方は貴族の娘がほぼそうするように色々な家庭教師をつけて、淑女になるための勉強しかしていない。
義母や妹や父に嫌われたくなくて我慢していたが、それがそんなに重要だったのだろうか?
昨日までの気弱な自分とは違う自分がここにいる。
愛されたい!家族がほしい!と何も言わず従っていた今までの昨日までの私の努力は無駄になるかもしれないが、愛とかなんとかを求めるのはタカラクジの1等とやらに当たるくらい難しいと思うわ。
裸足でパーティ会場を後にした。
決心した。無い物ねだりをせず、一人で強く生きていこうと。
ニホンでいた時、私はなかなか負けん気が強かったじゃない?母に破られた部活の紙をセロハンテープでつなぎ合わせて、父に見せた。諦められず。
足掻くのは嫌いではない!
無理やり履いた靴のため、足が痛くて動けない。ドレスが短すぎて歩くと靴が見えてしまうため、じっとしているしかない。
夜会は豪勢なものだった。音楽隊の生演奏、テーブルの上には私の食事では見たこともないものやもう何ヶ月も口にしていないフルーツやお菓子が並んでいた。
天井にはきらめくシャンデリアが新しく取り付けられている。祖父はお金はあったが質素な暮らしが好きな人だったから、屋敷も飾り立てるのことはしなかった。
義母であるサンドラの趣味だろう。
私が帰ってくると昔とは違い、屋敷の中もずいぶん変わっていた。
実母や祖父との過ごした思い出の家はもう無いと言ってもいいくらいだ。
「あの方は?誰ですの?」
義母の友人が聞く。相手は細い体の赤いドレスが派手な中年女性だ。哀れむような目で見られている。
私がニホンで嫌いだった小学校の時の担任に似てるわ。旅館の仕事で父や母が授業参観に来れないとわかると親なのになぜこれないのか?かわいそうな子供だと他の生徒の前で哀れむような目を私に向けて言い出したのだ。
あれは幼心にも嫌なものだった。
「気にしないでくださいませ。礼儀もなにも知らない長女ですわ。少し社交を勉強させようと思ってますのよ」
ホホホホと嫌な笑い方をする義母。耳障りな高い声である。ソフィアが私を手招きして呼ぶ。動けないことを知っていてわざとだ。
「セイラ!いらっしゃいよ。友人たちを紹介するわよ」
友人たちって私を突き落としたメンバーじゃない!と言いたかったが、さすがに公衆の面前で言うことはできない。
「おかまいなく」
何言ってるのよ。と言ってソフィアが手をひっぱり、私を連れ出す。そっと歩く私を無視して早歩きする。
「い、痛っ」
「なに?なにかいった?」
嬉しそうだ。何か反応すると余計に喜ぶので黙る。友人の中には男の人達もいた。
「アロイ!わたしのお姉さまと踊って差し上げてよ!ダンスを教えてあげて」
「えっ!?けっこうです!私はダンスは苦手ですから!」
こんな足が痛いのに踊れるわけがない。アロイと呼ばれた人はニヤニヤしている。
ソフィアの思惑を知っているのだ。私を馬鹿にして楽しむという今日の余興を!
グッと手をひっぱられて部屋の中央へ連れて行かれる。音楽が流れる。
「ご、ごめんなさい。本当に足が痛いの」
「一曲だけでも踊らないと失礼だろ?」
クルクルと私の手をとって動かし、体を回す。足が痛い。爪が割れそうである。
「やめて!」
そういうが無視される。とうとう痛みが我慢できなくて私は倒れ込んだ。周囲の人達が叫ぶ。大丈夫!?どうしたの?とお客さん達が驚く。音楽の音も止まった。
「ダンスもできない娘でごめんなさいね。ほら!立って!お客様に謝りなさい!」
義母がそう言う。私は痛みをこらえて立ち上がり、震える声で言った。
「せっかくの場に申し訳ありませんでした」
そういって部屋からようやく退場しようとするとソフィアの取り巻きの一人がわざと足を出して絡ませて私を転ばせる。その拍子にテーブルクロスを掴んでしまい、テーブルの上の物まで落ちる。皿の割れる音と銀食器の床に落ちる音が響く。
「セイラ!!なんてことを!!」
ソフィアが大げさに驚く。
「ほんとに何もできないグズな子ですの。皆様、あちらにお茶の用意をしてありますから、ここを片づけるまでどうぞ!こんなことになってしまって申し訳ないですわ」
わざとらしい!すでにお茶の用意もしてあるところを見ると二人の予定通りだったのだろう。悔しさで涙がにじむ。
「ここを片づけてからいきなさい!」
ぴしゃり!と言って去っていく。ソフィアは可笑しくてしかたないというように笑った。サイズの合わない靴を脱ぐと血だらけだった。そっと回復魔法を使って傷を治す。もう血みどろの靴は履けず、裸足のまま片づけようとして動きを止めた。
片づける必要などないと気づく。誰も見てないことを確認し、魔法陣を指先で描く。一瞬だけ光るとテーブルは何事もなかったように元通りとなった。
久しぶりの魔法だった。
父は女が知識をつけたり、小賢しい魔法を使ったりすることは大嫌いなのだ。目の前で使えない。家へ帰ってきてからは一切の魔法の使用をしていない。
エスマブル学園へ私を入れたのは祖父の方針である。逆にソフィアの方は貴族の娘がほぼそうするように色々な家庭教師をつけて、淑女になるための勉強しかしていない。
義母や妹や父に嫌われたくなくて我慢していたが、それがそんなに重要だったのだろうか?
昨日までの気弱な自分とは違う自分がここにいる。
愛されたい!家族がほしい!と何も言わず従っていた今までの昨日までの私の努力は無駄になるかもしれないが、愛とかなんとかを求めるのはタカラクジの1等とやらに当たるくらい難しいと思うわ。
裸足でパーティ会場を後にした。
決心した。無い物ねだりをせず、一人で強く生きていこうと。
ニホンでいた時、私はなかなか負けん気が強かったじゃない?母に破られた部活の紙をセロハンテープでつなぎ合わせて、父に見せた。諦められず。
足掻くのは嫌いではない!