高校に入って数ヶ月が過ぎた頃、私は休み時間に呼び出され、人気の少ない廊下で数人の先輩達に囲まれていた。

「本郷君に纏わりつくなって言ったよね?あんた、何様のつもり?目障りなんだよ!」

 普通の女子高生と比べれば少し‥‥いや、かなりがたいのいい彼女達は女子柔道部員なのだという。彼女達がその気になれば私なんて一瞬で投げ飛ばされてしまうのだろうが、こう何度も呼び出されていればさすがに慣れてこの程度では怯まない。

「何様って‥‥だから婚約者?」

「それ、前にも聞いたけど、本郷君に確認したら婚約者なんていないって言ってたけど?」

 確かに特別約束をかわしてはいないが、私がたけちゃんのお嫁さんになるのは確定事項なのだから、それはすなわち婚約ってことだと思ったのだが‥‥

「もう、たけちゃんたら。照れてるのかな?」

「あんたみたいに思い込みの激しい女が周りをウロチョロしてたら本郷君の邪魔になるってわからない?本当迷惑だから消えてくんない?」

「いや、たけちゃんに迷惑って言われたら多少は考慮するかもだけど、関係ない先輩達に言われる筋合いはないんで、消えるとかまじ無理ですから」

「はあ!?関係ないのはあんたでしょ!?」

 先輩達のボルテージが上がりだしたところで予鈴が鳴った。

「あ、授業に遅れちゃう。私、先輩達と違って真面目に勉強しないと大学行けなくなっちゃうんで、失礼しますね?」

 たけちゃんがどこの大学に行くかはわからないが、大学受験はあとから巻き返そうと思ってもそう簡単にはいかないだろう。難関大学にも柔道が強いところはあるから油断は大敵だ。

「じゃ!また!」

 やられっぱなしも嫌なので、先輩達を更に煽るような態度でその場をあとにする。思惑通りイラついた先輩のひとりが自販機横のごみ箱を派手に蹴飛ばした。だが、私に被害はないので気にせずそのまま立ち去る。

「お前達!何してんだ!」

 大きな音を立てたせいで目を引いたのか、うしろから先生の怒鳴り声がした。後輩をいじめる悪い先輩達はもっと怒られればいいんだ。ざまあみろである。

 この高校は野球やサッカー、バレー等々にも力を入れていて、全国から集められた部員達は人気が高い。同じく柔道も全国レベルの結果を出してるのだが、他と比べて人気がなかった。

 多分、坊主のせい。私ですら5厘刈りはどうかと思うのだ。一般の女子高生には受け入れがたいのだろう。

 だが、それに見慣れた女子柔道部員にとってのたけちゃんは、強くてイケメンな憧れの的らしい。

 これまでたけちゃんの魅力に気づく女子がいなかったので、私にとって彼女達ははじめてのライバルだ。

「ま、相手にもならないけどねー」

 私の愛は10年ものだ。そう簡単には揺らがないのである。