そして迎えた準決勝。相手は当然、関東大会でたけちゃんを下した人物、高橋だ。

 学校名と名前しか知らなかったので実物を見たのははじめてだったのだが、想像とだいぶ違う。いかつくてゴリゴリした感じを想像してたのに高橋はまあまあイケメンで、奴が登場すると会場からまさかの黄色い声援があがった。

 なんかむかつく‥‥‥‥

「たけちゃん!絶対負けないで!」

 思わず大声で叫んでしまった。でも高橋への声援に紛れ、たけちゃんに私の声が届いたかはわからない‥‥そう思ったのに、驚いたような表情で振り返ったたけちゃんがこっちを見た。

 私の声援を受けてほんの一瞬うっすらと微笑んだたけちゃんは、すぐに意識を試合へと戻した。

 詳しいことはわからない。だけど高橋との試合はかなりの接戦で白熱したものだった。序盤は距離をとって様子見していたが、先に踏み込んだのは高橋。そこからは目まぐるしい技の掛け合いが続き、両者にポイントが入っていく‥‥

 取っては取られ、取られては取る。一進一退のまま時間が経過し‥‥結果、判定で負けたのはたけちゃんだった。

 3位決定戦で一本勝ちしたたけちゃんは3位入賞を果たし、決勝に進んだ高橋も一本勝ちで優勝を決めた。

 悔しい‥‥けど、たけちゃんはきっともっと悔しいんだろう。家でたけちゃんの帰りを待つことにして、私は会場をあとにした。

 夜になってたけちゃんの家に行くと、おばさんから筋トレしてると聞かされそのままガレージへと足を運ぶ。たけちゃんは私に気づくと筋トレを中断し、ダンベルを床に置いた。

「たけちゃん、お疲れ」

「のぞみ‥‥‥‥今日は‥‥ごめん」

 突然謝られたが、意味がわからない。

「え?なんでごめん?」

「だって、絶対に負けるなって‥‥」

 ああ‥‥高橋がキャーキャー言われてることにむかついて、うっかり口走ってしまったあれのことか。あんなの気にすることないのに‥‥

「うーん‥‥試合には負けちゃったけど高橋と闘うたけちゃんはもの凄くかっこ良かったし、私的にはたけちゃんが勝ってたよ。それに‥‥柔道でもいつか高橋を投げ飛ばすとこ、見せてくれるでしょ?」

「‥‥?う、うん。いつか必ず勝つよ」

 たけちゃんは自分が勝ってると言われた意味はわかっていないようだが、高橋へのリベンジを約束してくれた。

 全国大会で好成績を残したたけちゃんは希望通り桃蔭学園への進学が決まり、その後死に物狂いで勉強をした私も同じ高校に合格して、周りを驚かせたのだった。