全国大会の日、私は東京の試合会場の観覧席でたけちゃんの登場を今か今かと待っていた。

 優勝候補といわれてるのは強豪校の人達がほとんどで、そういう人達はみなオリンピック出場を目標に整えられた環境でその道のプロによる厳しい指導を受けているのだろう。

 公立中学に通っているたけちゃんが道場に通い続けているのは、そこで本格的な指導を受けているからなんだと思う。

 たけちゃんだって全国大会に出場しているのだし他にも同じような選手はいる。強豪校で指導を受けることだけが正しい道というわけではないのだろうが、設備や環境は本人の努力だけでは埋まらないものなのかもしれない。

 実際、関東大会でたけちゃんが負けた選手は毎年何人もの優勝者を出している有名校に所属し、関東大会に続いて全国大会でも優勝候補の筆頭といわれている人だ。

 彼らもたけちゃんと同じで努力してるんだろうし、だからこそここにいる。

 でもそんなの私には関係ない。たけちゃんを負かす相手は私にとっては絶対的な悪なのだ。

 トーナメントで負けたらそこで終了となるのだが、その相手は生意気にもシード枠に名前があった。まあそのおかげで準決勝までたけちゃんとはあたらないからよしとしよう。

 県大会よりも会場が大きいし人も多い。たけちゃんは私がどこにいるかわからないだろうけど、応援に来ることは伝えてあるからきっと大丈夫だ。

 開会式が終わり1回戦が始まった。たけちゃんの出番はまだ少し先なので、私は英単語の暗記をしながら時間を潰す。

 そろそろかと思い会場を見回すと、落ち着いた様子で顧問の先生の話を聞くたけちゃんを見つけることができた。

 先生が気合いを入れるように背中を叩き、たけちゃんはそれに応えて大きく頷いた。いよいよ試合が始まるのだろう。

 たけちゃんが初戦で負けることは多分ないと思うが、握った拳に力が入る。

『たけちゃん!頑張れ!』

 試合前で集中しているたけちゃんの邪魔にならないよう声をかけたりはせず、心の中で声援を送る。

 一瞬、たけちゃんと目があった‥‥まさか私に気づいてる?いや、ライブで『推しと目があった!』的な現象かもしれない。

 試合が始まるとこれまでとはレベルが違うのだと実感した。たけちゃんはいつもあっさり相手を投げ飛ばすのに、多分初戦から相手が強いのだろう。

 それでも順調に勝ち進むたけちゃんは、やっぱり強くてかっこいい。